2006年。コンピューターのビープ音とヒップホップに影響を受けたリズム、この2つに覆い被さる西洋的な響きが、人工と自然、定型と不定型、拍節と旋律、アフリカ系と白人、男性と女性、具体と抽象といった二項対立的要素の合一を感じさせる。時折出てくる80年代風テレビゲーム音は、この世代にとっては心を高揚させる信号なのだろう。アルバムタイトルはフライング・ロータスの誕生年。
2008年。アルバムタイトルはフライング・ロータスの出身地。2作続けて出自に関わるタイトルを付けていることから、音楽も自己が何者であるかを意識したものであると推測できる。前作は10曲の中に5分と6分の曲があったが、このアルバムでは16曲すべてが4分以下に納められ、多くのアイデアを聞かせることに主眼を置く。ノイズや劣化電子音の多用は90年代以降の文化を反映している。基本的に「1983」の延長線上にあるサウンド。
2009年。EP盤3枚を1枚のCDに収録。2、3枚目にあたる曲は外部のアーティストによるリミックスを集めており、ボーカルが付いている曲が多い。主役はフライング・ロータスよりもリミックスしている各アーティストだ。1枚目の6曲のうち「スリーピー・ダイナソー」「ロバータ・フラック」は「ロス・アンジェルス」収録曲と同じで、CDに収録されていない。日本のみの発売。
2010年。ベース、ストリングス、ハープを主要楽器とし、その基盤のリズムとベース、シンセサイザーをフライング・ロータスが作っている。ベースはベースギター奏者が客演しているけれども、それより低音のベースも同時にあるので、ベースギターはメロディー楽器として機能している。時折使われるサックス、トランペットを含め、ストリングスやハープがジャズやクラシックのような伝統音楽を連想させる。そこにエレクトロニクスやシンセサイザーが加わると、近未来ではなく懐かしの未来の感覚が出てくる。創作の動機が自己主張から感情に移ったことで、「1983」と「ロス・アンジェルス」から大きく飛躍した。「アンド・ザ・ワールド・ラフス・ウィズ・ユー」はレディオヘッドのトム・ヨークがボーカルで参加。ベースはスイサイダル・テンデンシーズのサンダーキャット。
2010年。EP盤。客演を得ず、フライング・ロータスがすべての音を演奏している。アルバムよりも軽い感覚で作っているとみられ、サウンドを自己完結できる気楽さが感じられる。フライング・ロータスはEP盤をCDで出さないが、日本ではCD化されている。
2012年。前作に参加していたベース、キーボード、ストリングス奏者が引き続き参加し、前作よりも抑制気味に客演している。電子音を劣化させたような音は前作に比べれば減っており、これまでで最も滑らかに音が響く。「1983」からノイズを減らし、シンセサイザーではなくサンプリング音で音を構成したようなサウンド。「エレクトリック・キャンディマン」はレディオヘッドのトム・ヨークが参加し、2000年前後のレディオヘッドのような曲になっている。「シー・スルー・トゥ・ユー」はエリカ・バドゥが参加し、ベース、ドラム音が明瞭なポップな曲。
2014年。ジャズ、フュージョン、ヒップホップに傾倒し、バンドサウンドにエレクトロニクスを加えているようなサウンド。オープニング曲からギター、ベース、ドラム、サックスで畳み掛ける。キーボードのハービー・ハンコック、サックスのカマシ・ワシントン、ボーカルのケンドリック・ラマー、スヌープ・ドッグが参加し、作曲にも関わっている。80年代のジャズ、フュージョンと2000年代以降のヒップホップ、エレクトロ音楽を抱合し、エレクトロニクスがなければ作り得ないジャズ、フュージョンを目指したとみられる。アルバムの前半は有名アーティストが参加し、緊張感がある。ジャズがもともと持っている予測困難なアンサンブルに、エレクトロニクスやシンセサイザーがもたらす未知の音響が加わり、バンド演奏とは異なる未聴感がある。「コズモグランマ」のハープとストリングスがキーボードやサックスに替わり、ボーカルが多彩になったようなアルバム。19曲のうち過半数は2分以下。