2012年。フリート・フォクシーズのドラム、ジョシュ・ティルマンがボーカル、ギター、ドラムを務め、プロデューサーがその他多数の楽器を演奏する。フリート・フォクシーズと同様にアコースティックギター、ピアノ、ベース、ドラム、パーカッション、オルガンなど、人間が楽器を演奏した音を基本に曲を構築している。ジャケットや歌詞を含めると、1970年前後のサイケデリックロック、アシッドフォークに憧憬を抱いていることは明らかだ。「ディス・イズ・サリー・ハチェット」はほほえましいくらいにビートルズ風。日本盤の歌詞対訳は注釈を掲載し忘れている。
2015年。アコースティック楽器と弦楽器を中心とする。60年代のオーケストラ付きポップスと70年前後のシンガー・ソングライターを掛け合わせたような、人工音をできるだけ排したサウンドだ。ジョシュ・ティルマンはゆっくり歌うので歌詞は聴き取りやすい。「トゥルー・アフェクション」は意図的にエレクトロサウンドにしたのだろう。それ以外の曲はシンセサイザーも使わないことが多い。「ナッシング・グッド・エヴァー・ハプンズ・アット・ザ・ガッダム・サースティ・クロウ」はカントリー風なので弦楽器もフィドル風に演奏される。「ボアード・イン・ザ・USA」はブルース・スプリングスティーンの「ボーン・イン・ザ・USA」のタイトルと批判性を借り受け、曲調を弾き語りに近いアコースティックサウンドに入れ替えている。高い評価を得るのは当然という手法だ。
2017年。前作の11曲45分から13曲74分に長大化。「リーヴィング・LA」は13分、「ソー・アイム・グロウイング・オールド・オン・マジック・マウンテン」は10分ある。ジョシュ・ティルマンはこのアルバムに自ら長大な解説文を付けている。各曲の歌詞はこの解説文の内容と概ね一致しているので、アルバムのメッセージとしてはジョシュ・ティルマンの言うとおりなのだろう。ギリシャ神話と聖書を両方引用するところは、西洋人の文化的源流について基本的知識があることを示し、また、ジョシュ・ティルマン自身に教養があることをアピールしている。各曲は概ね5人から6人のバンド編成を基本として録音している。13分ある「リーヴィング・LA」はジョシュ・ティルマンが1人アコースティックギターで弾き語る。アルバムタイトルになっているオープニング曲もピアノの弾き語りに近く、アルバム全体の雰囲気としては重厚になっている。歌詞が聴き取りやすいように歌うのは前作と変わらないが、ストリングスやキーボードの使い方は70年代後半に近づき、注意して聞けば音の加工は頻繁に行われている。前作にあったあからさまなエレクトロサウンドの曲はない。ジャケットはヒエロニムス・ボスやブリューゲルの影響を受けている。
2018年。オープニング曲の「ハングアウト・アット・ザ・ギャロウズ」でこのアルバム全体のテーマが示される。それは政治と宗教だが、各曲では政治とも宗教ともとれる歌詞が続く。人間の行動やコミュニケーションは期待通りにならないことが多々あるが、その理由を社会状況に求めれば政治になり、運命に求めれば宗教になる。ジョシュ・ティルマンがこのようなテーマを設定したこと自体、政治の問題だというメッセージが込められている。アコースティックギターよりもピアノを中心とする曲が多い。10曲で38分と、前作の約半分になっている。日本盤は長いタイトルの曲をそのまま片仮名に転写しただけの邦題になっており、きちんとした邦題を付けるべきだった。