エルヴェイティはスイスの民謡メタルバンド。8~10人編成。民族楽器をシンセサイザーではなく実際の奏者によって演奏し、メンバーにも含めている。キーボード奏者はいない。他の民謡メタルバンドとは異なるサウンドを追求している。ローマ帝国時代のガリアに対する思い入れが強い。バンド名はその当時のラテン語でスイス地域の民族を意味する。過去の自民族、自国の栄光や歴史を取り上げる心性と、人気が出る背景は、ナショナリズムの興隆と共振している。
2004年。エルヴェイティはスイスのトラッド・メタル・バンド。ボーカル兼バグパイプ兼ティン・ホイッスル、ギター2人、ベース、ドラム、バイオリン2人、ブズーキ、フルート、バグパイプ兼ハーディガーディの10人編成で録音されている。固定されたメンバーではなく、録音の都度メンバーを集めるようだ。中心人物はボーカル兼バグパイプ兼ティン・ホイッスルのクリゲル・グランツマンで、全曲を作詞作曲している。メロディー楽器は民族楽器で、ギターはリズム楽器になっている。多くのトラッド・メタル同様、風や雷の音がよく使われる。民族楽器を取り入れたヘビーメタルではなく、ヘビーメタルの体裁を取った民族音楽のサウンドだ。
2006年。9人で録音されている。ヘビーメタル、デスメタルのサウンドにバイオリン、ティン・ホイッスル、バグパイプがメロディーを乗せる。一般的なトラッド・メタルよりは民族楽器の量が多い。ケルト神話を題材にすることも、古語で歌うこともやや目新しさに欠ける。
2008年。邦題「魔笛の国のスラニア」。8人編成。バイオリンが1人になったようだ。オープニングの「サモン~冬~」はイントロで、「生命の息吹」から実質的な曲が始まる。前作よりも大幅にロック寄りで、基盤となるサウンドはヘビーメタル、デスメタルだ。なじみやすい音楽ではないが、哀愁を帯びたメロディーは普遍性があるだろう。ケルト文化による四季が、冬、春、夏、秋の順で曲になっている。
2009年。邦題「イヴォケーション1~神秘の地ガリア~」。リードボーカルが女性バイオリン奏者に変わり、クリゲル・グランツマンのデス声はほとんど出てこない。「復活の大釜」は低い声のボーカルになるが2分以下の短い曲。エレキギターも大幅に減り、サウンド全体としてはヘビーメタルよりも民族音楽調のゴシック・ロックだ。ザ・ギャザリングやラクリモーサの路線を取ったか。
2010年。オープニング曲は2分のイントロで、2曲目のアルバムタイトル曲に続く。「魔笛の国のスラニア」の路線に戻り、サウンドの基本はメロディアスなデスメタルだ。ボーカルが入るときはギターがリズムを刻み、それ以外の部分ではティンホイッスルやフルート、イーリアン・パイプがソロを演奏する。民族楽器をメーンとし、バンドをバックバンド扱いにした方が潔い。
2012年。カエサルが戦記を残したガリア戦争を題材としている。歌詞の作りやすさから選ばれた題材だろうが、平凡だ。登場人物と一体化した一人称の歌詞が多く、客観視していないのは自覚のない自民族中心主義とも言える。「プロローグ」は1分半のナレーション。「ルクストス」はデス声のボーカルとメロディーを歌うコーラスが同時に進んでいく。「スコーチド・アース」は男性による詠唱。「ア・ローズ・フォー・エポナ」「アリジア」はハーディー・ガーディーの女性がボーカルをとるが、専任の女性ボーカルを入れた方がいいくらいに下手。「ホープ」は民族楽器によるインスト曲。民族音楽風ヘビーメタルとしては「ヘルヴェティオス」「ミート・ジ・エネミー」「ハヴォック」「ジ・アップライジング」などがハードだ。「ザ・シージ」は女性ボーカルも絶叫型ボーカルになる。
2012年。デビューEP「ウェン」とアルバム「スピリット」を現在のメンバーで再録音。音質も上がっている。
2014年。ギターとバイオリンが交代。アルバムタイトルになっているオープニング曲は語りが入った2分のイントロ。アルバムの前半はボーカル、後半はギターが作曲していることが多い。ケルト神話を題材にしているため、16曲のうち7曲に語りが入る。題材は違っても曲の方向性は「ヘルヴェティオス」と同じ。キーボードを入れず、ティンホイッスル、バイオリン、バグパイプを中心とする民謡メタルは貴重だが、少し変化がほしい。
2017年。邦題「イヴォケーションII~ガリアの神々~」。ギター、ドラム、バグパイプ兼ティンホイッスル、ハーディー・ガーディーが交代し、ハープが加入、9人編成。女性ボーカルも変わっている。ヘビーメタル、メロディック・デスメタルの要素はほぼなく、アコースティックギターを中心とするバンドサウンドにホイッスル、バイオリンが加わる曲が多い。ボーカルも女性がメインで、男性はわずかだ。このアルバムだけを見れば、ヘビーメタルのバンドではなく、これまでで最も民族楽器に傾倒したサウンドだ。歌詞はケルト神話の神を取り上げており、「イヴォケーション1~神秘の地ガリア~」の直接的なつながりがあるわけではない。14曲目は「スカボロー・フェア」の基になった伝承音楽を引用。
2019年。メインボーカルは男性だが、メロディーの高揚感は女性ボーカルが受け持つ。バイオリン奏者の女性もボーカルをとり、女性ボーカルは事実上2人になっている。「ブラック・ウォーター・ドーン」「ザ・レイヴン・ヒル」「ザ・スランバー」はエヴァネッセンスを思わせる男女ボーカル。「アンビラマス」「ブリース」は女性ボーカルがメインで、今後増えていくかもしれない。「マイン・イズ・ザ・フューリー」「リバース」はこれまでで最もハードな曲だ。歌詞はガリア、古代ヨーロッパをテーマとしており、現代性はない。16曲のうち3曲は前奏曲や間奏曲なので実質的に13曲収録。