ドラゴンフォースはイギリスのヘビーメタル・バンド。ボーカル、ギター2人、ベース、ドラム、キーボードの6人編成。ギター、ベース、ドラム、キーボードがそれぞれ高速演奏し、流麗なメロディーを歌う。超高速演奏バンドの代表的バンド。
2003年。ギター2人、キーボードを含み、ベース不在の5人組。スピーディーで伝統的なヨーロッパ型ヘビーメタルの形に沿っているが、デビュー盤からすでに個性と言うべきメロディーを持っている。サウンドの形態に関係なく、独自のメロディーを確立していることはすばらしい。5拍目まで高音で、6拍目に一気に飛び降りるメロディーを、バンドの一貫した個性として聞き手が把握できるかどうかで、評価は違ってくるだろう。
2004年。ドラムが交代し、ベースが加入、6人編成。作曲はギターの2人とキーボードが行っている。前作と同じく、基本的なメロディーは変わらない。ミドル・テンポでもそのメロディーは使われるので、普通に聞けば作曲能力が高いことはすぐに理解できるが、初心者がスピードに耳を奪われて正常な判断能力を乱すことは想像に難くない。
2005年。これまでのサウンドを踏襲。一度聞けば覚えてしまうメロディーはヘビーメタル以外のポップス、ロックでもそう多くない。メロディアスなヨーロッパ型ヘビーメタルで言えば、ハロウィンやガンマ・レイ並みの作曲能力がある。6、7分の曲が多く、8曲のうち最後の曲以外はスピーディーに演奏される。次のアルバムでは新しい別の個性が要求される。
2008年。サウンドがデビュー以来一貫している。数秒聞いただけで多くの聞き手がアーティスト名を答えられるバンドは少ない。やや編曲に幅が出てきた。イングヴェイ・マルムスティーンの登場時と同じで、比較的簡単に計量できる演奏技術、すなわち高速演奏に対する聞き手のゆがんだ拒否反応をうまく利用している。スピードは、ヘビーメタルをヘビーメタルたらしめる要素のひとつにもかかわらず、それを明確に、終始貫徹して目の前に突き出されると、「ヘビーメタルはそんなものではない」と拒絶したがる反応である。したがって、拒否反応を示せば示すほど、このアーティストを賞賛することになるというパラドックスが生じる。挑発のサウンドとも言えるが、挑発にひっかかる聞き手の多さにおいては、イングヴェイ・マルムスティーン以降では有数のバンドと言える。
2010年。ライブ盤。2枚組。比較的安定した演奏で、ボーカルはスクリーモのように絶叫することがある。1カ所での録音ではなく、複数の場所で録音して選んでいるようだ。歓声はつながっているのでライブの高揚感は保たれている。ボーナストラック2曲を含めて15曲106分。
2012年。ボーカルが交代。作曲はギターとベースが行っている。ボーカルが替わってもメロディーによってドラゴンフォースだと分かる。オープニング曲の「ホールディング・オン」は聞き手を安心させる曲。「フォールン・ワールド」はバンド最高速の曲だというが、この曲も安心させる一面がある。「ウィングス・オブ・リバティ」はいい曲だ。「ダイ・バイ・ザ・スウォード」はランニング・ワイルドの曲をドラゴンフォースが編曲したような曲。
2014年。多数の音階を高速で演奏するというサウンドは変わらない。オープニング曲を高速の曲としてまたアピールし、3曲目まで前のめりの曲が続く。4曲目から6曲目までは高速ではない。9、10曲目は速く、アルバム全体が高速であるという印象を持たせている。ドラゴンフォースのサウンドのあり方は一般的には高く評価されない。しかし、曲の一要素としての社会性や内省性、不定形性や享楽性などは近年軽重が平準化してきており、ヘビーメタルが強く持つハードさや速さ、権威志向はそれほど否定的には解釈されなくなってきている。したがって、今のサウンドのままでどんな要素を付け加えることができるのかがバンドの存続を左右することになる。
2016年。ベスト盤。
2017年。「パワー・ウィズイン」のころはギターの1人を中心に作曲していたが、「マキシマム・オーヴァーロード」ではギターとベースがほぼ等分となり、このアルバムではベースを中心に作曲している。作曲の主導権が変わったことで曲調が大きく変わったということもないが、変化の萌芽はみられる。11分ある「ジ・エッジ・オブ・ザ・ワールド」は全体としてミドルテンポで、最後の「アワ・ファイナル・スタンド」も高速というわけではない。ドラゴンフォースのメンバーとして作曲する以上、高速演奏する曲を作ることは避けられないが、新たに主導権を取ったベースが志向するのは最後の2曲のような曲調だろう。高速演奏の曲でも、最初から最後まで高速で演奏することはなく、曲の途中でテンポを落とす。
2019年。キーボードが抜け5人編成。キーボードはエピカのメンバーが演奏している。高速演奏のイメージに隠れているが、ヘビーメタル由来ではないキーボードの音やギターのトレモロはドラゴンフォースの特徴になっており、高速演奏ではなくても十分に個性的だ。高速演奏がないアルバムを作ってもドラゴンフォースと分かるアルバムになるだろう。オープニング曲から7曲目まで徐々に曲の時間が短くなる。「ザ・ラスト・ドラゴンボーン」は中国風の曲。「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」は映画「タイタニック」で使われた有名曲のカバー。3分半で高速演奏している。