DIRTY PROJECTORS

ダーティー・プロジェクターズはアメリカ、ニューヨークのバンド。ボーカル兼ギターのデイヴ・ロングストレスの個人プロジェクト。女性メンバーを含むコーラスに特徴がある。代表作は「ビッテ・オルカ」。ビョークとの共演盤がある。

GRACEFUL FALLEN MANGO/DAVE LONGSTRETH

2002年。ダーティー・プロジェクターズの中心人物、デイヴ・ロングストレスによるアルバム。

1
THE GLAD FACT

2003年。ギター、ベース、ドラム、シンセサイザー、サンプリング等をデイヴ・ロングストレスが1人で多重録音し、コーラスも1人で2声から3声を重ねている。ギターの弾き語りを基本とするような曲調で、特徴的なメロディーやコーラスはデビュー当初からあったことが分かる。自宅録音に近い。15曲のうち2曲だけ5分、他の13曲は2分から3分台。

2
MORNING BETTER LAST!

2003年。デイヴ・ロングストレスの未発表をダーティー・プロジェクターズのアルバムとして発売。

3
SLAVES' GLAVES AND BALLADS

2004年。ドラムと8人編成の室内合奏団が加わる。室内合奏団はキーボード、ベースの代替として使われる。アルバムの前半は室内合奏団が前面に出る「スレイヴズ・グレイヴズ」、後半がギターの弾き語りを中心とする「バラーズ」となっている。編成と構成は実験的だ。コーラスの多重録音は控えめ。

4
THE GETTY ADDRESS

2005年。イーグルスのドン・ヘンリーの夢を題材にしたコンセプト盤。ブックレットには歌詞とともに物語の内容も書かれている。デイヴ・ロングストレスがドン・ヘンリーとして歌っている。13曲のうち8曲にそれぞれ2~8人の女性コーラスがつき、8曲に7人編成の管楽合奏がつく。チェロ奏者が3曲に参加する以外は弦楽合奏が出てこないため、前作とは異なる編成を指向したとみられる。メロディーをギターと管楽器、リズムをドラムとパーカッションが担い、曲の編集加工は適度にされている。一般的な編成でのロックではないが、これまでのデイヴ・ロングストレスの歩みを考えると、異なる音楽を追求しようとする姿勢そのものがロックだと言える。

5
RISE ABOVE

2007年。女性ボーカル、男性ボーカル兼ギター、女性ボーカル兼ギター、ギター、ベース、ドラムの6人編成。女性2人によるハーモニーが特徴で、同時に発声するコーラスというよりはアンサンブル的にずらしながら、声を楽器のように扱う。声を長く保たず、たたみかけるように次の音階に移るのでスリルを生み出す。ボーカルに比べれば、バンドサウンドは(系譜上の関心があったとしても)大きな特徴はない。このアルバムで日本デビュー。

6
BITTE ORCA

2009年。男性2人、女性2人の4人編成。女性のボーカル・ハーモニーがさらに高度になった。高い声を短い間隔で出していくのは、技術的には難しい。デイヴ・ロングストレスが前面に出ないのも好ましい。代表作。

 
MOUNT WITTENBERG ORCA/DIRTY PROJECTORS+BJORK

2011年。ダーティー・プロジェクターズとビョークが共演したアルバム。ダーティー・プロジェクターズの女性2人が見事なコーラスを聞かせる。「海原にて」と「美しい母」は女性2人だけがボーカルをとる。ビョークは3曲、デイヴ・ロングストレスが2曲でリードボーカルを取る。ギターとドラムは使われていないというが、サウンド上はそれに似た音が使われる。それでも楽器の音自体が少ない。7曲で21分だが、3倍は作ってほしいサウンドだ。

7
SWING LO MAGELLAN

2012年。バンドとしてのまとまったサウンドとなり、インディーズ特有のシンプルで隙間の多い音になっている。一般的な女性ボーカルよりも高い声のコーラスは、それ自体緊張をもたらす。それ以外のバンドサウンドは、特に変わった特徴があるわけではない。サウンドの面白さは、今のところ女性コーラスにあるが、さらに何か特徴ができればより多くの認知を得られるかもしれない。

8
DIRTY PROJECTORS

2017年。実質的にデイヴ・ロングストレスのソロアルバムになっており、多くの音はデイヴ・ロングストレスが作っている。実際の楽器を使うドラムやパーカッション、金管楽器、ストリングスは他のアーティストが参加している。2人の女性ボーカルも抜けているが、デイヴ・ロングストレスが多重録音でボーカルハーモニーを再現しており、曲調はこれまでとあまり変わらない。ボーカルの加工も含め、エレクトロニクスやシンセサイザーを駆使したサウンドの中に実際の金管楽器やパーカッションが入ってくると、双方が新鮮に聞こえてくる。9曲のうち5曲にバトルズのタイヨンダイ・ブラクストンが参加している。「アイ・シー・ユー」は全面的にオルガンが使われ、プロコル・ハルムの「青い影」を思わせる。歌詞も宗教性があり、意図的にオルガンを使ったとも言える。

9
LAMP LIT PROSE

2018年。ギターを中心にキーボード、ホーンセクション、ボーカルハーモニー等を交え、前向きなバンドサウンドを構築する。デイヴ・ロングストレスは多くの楽器をこなし、ドラム、パーカッション、ホーンセクション、ストリングスを他のアーティストに任せることが多い。10曲のうち6曲はゲストの参加があり、コーラスに貢献する。「ライズ・アバヴ」や「ビッテ・オルカ」ほどの鮮烈さはないが、ダーティー・プロジェクターズの音楽的特徴を保ちながら、親しみやすさを押し出している。ヴァンパイア・ウィークエンド、ハイム、フリート・フォクシーズのメンバー、バトルズのタイヨンダイ・ブラクストンが参加している。

5EPS

2020年。4曲ずつ入った5枚のEP盤をまとめた企画盤。EPはそれぞれ録音メンバーも作風も異なる。EPごとに4曲ずつ順番に収録されているので作風の違いは認識しやすい。端的に言えば、1枚目はアコースティック楽器を中心とする曲、2枚目はキーボード、プログラミングを中心とする曲、3枚目はデイヴ・ロングストレスによるボサノバ、4枚目は現代音楽とプログラミング、5枚目はバンドサウンドで、1枚目と2枚目を合わせたようなこれまでのダーティー・プロジェクターズの曲となっている。1、2、4枚目は3人いる女性メンバーがそれぞれボーカルをとり、5枚目ではデイヴ・ロングストレスを含む4人全員が参加している。5枚目の路線で新しいアルバムが制作されるなら期待できる。