1985年。ギターの音を特に改変することなく、ディストーションがかかったまま弾いている。ボーカルは明確にメロディーがあり、あまり表現に気を遣うことがない。バンド全体が商業的行動を意識していない印象だ。同時代の一般的なロックに比べ、清書されたサウンドを作らなければならないという内面化された規範に従っていない。それが結果的に同時代のロックとは別のロック、すなわちオルタナティブ・ロックということになるけれども、この時期は「同時代のロック」が全盛であり、大きな注目を集めることは難しかった。「フォーゲット・ザ・スワン」はブルー・オイスター・カルトの「死神」を思わせるメロディーをニール・ヤングが歌っているような曲。「セバード・リップス」はこのアルバムの最高作。
1987年。メロディアスな部分が増えた。ハードコアの衝動的なサウンドが減ったわけではないが、同時代のヘアメタルに影響を受けたとみられるギターソロが現れる。ギターは多少時流を取り入れても、全体としてハードコアのような轟音を維持している。ボーカルはヘアメタルに追随しようとせず、この点でバンドがまだ飾り気はなく、多重録音もしないガレージロックの音だ。ベースのルー・バーロウが作曲した「ポレド」はフレーズの断片をつなぎ合わせたような実験的な曲。
1988年。ギターが2本になったり、コーラスがついたりして、サウンドがやや厚くなった。オープニング曲の「フリーク・シーン」が代表曲となっているが、他の曲も質は変わらない。ガレージ・ロックの雰囲気は残している。「ポンド・ソング」はヒット性がある。「ドント」はハードコアの路線。ボーナストラックの「ショウ・ミー・ザ・ウェイ」はピーター・フランプトンのカバー。原曲に忠実だ。
1991年。シングル収録曲とアルバム未収録曲を集めた企画盤。6曲収録。曲調はさまざま。この企画盤で日本デビュー。
1991年。ベースが交代しているが、アルバムで演奏しているのはJ・マスキス。全曲をJ・マスシスが作曲し、ドラムも10曲のうち7曲を演奏しているので、事実上J・マスシスのソロアルバムとなっている。80年代に流行したハードロックと全く逆方向を向き、無加工、武骨、無愛想といった雰囲気が漂う。このアルバムから大手レコード会社の発売となったが、サウンドは以前の3作よりもギターの破壊的な音が減り、通常のロックファンにも聞きやすくなっている。実験性やハードコア感覚は薄くなっている。ギターに適度な粗さや生々しさがあり、ボーカルは80年代のヘアメタルと全く異なる非技巧的な歌い方で、90年代の新しいロックとしてのオルタナティブ・ロックを牽引するアルバムとなった。再発盤はボーナストラックでフライング・ブリトウ・ブラザーズの「ホット・ブリトウNo.2」をカバーしている。「サム」はメロトロンを使用。「ザ・ワゴン」収録。
1993年。オープニング曲からJ・マスシスのギターが目立つかっこいいロックで、ボーカルは70年代のシンガー・ソングライターのような歌い方だ。やる気なさげな歌い方ではなく、声を張り上げないで抑揚をつけている。ギターは2本分聞こえるのが当たり前になっており、ソロは。「ノット・ザ・セイム」はアコースティックギターとキーボードを使い、高い声で歌うバラード。バンド編成だが、J・マスシスの存在感がますます大きくなっている。メロディーの親しみやすさは前作以上。「ホワット・エルス・イズ・ニュー」の後半はアコースティックギターとストリングス、ティンパニが絡み合う。
1993年。シングル盤収録曲、10曲収録。アコースティックの演奏が多い。
1994年。ドラムが抜け、J・マスシスが演奏する。やや落ち着いたロックになり、オープニングの「フィール・ザ・ペイン」、それに続く「アイ・ドント・シンク・ソー」はバンドのアンサンブルを念入りに考えたかのような整合感のあるサウンドになっている。それでもギターは十分なラフさを維持し、ボーカルに技巧を加えず、オルタナティブ・ロックやグランジの特徴を分かりやすく兼ね備えている。前作での扇情的なギターソロはあまり聞かれない。アコースティック・ギターがやや増えたこともあり、内省的な印象を与え、グランジロックのイメージに近づいている。
1997年。ギターのソロが目立つ点は「ホエア・ユー・ビーン」に近いサウンド。ロックの快活さに富み、時折使われるトランペットやシンセサイザーが意外性をもたらす。「ネヴァー・ボート・イット」から「キャント・ウィ・ムーヴ・ディス」は4曲連続してギター以外のメロディー楽器が使われる。「ネヴァー・ボート・イットのフルート、「キャント・ウィ・ムーヴ・ディス」のストリングスはメロトロンだろう。「アローン」はブルースロックのような曲で、他の曲よりも突出して長い8分。アレンジ上の工夫もさることながら、曲そのものがとてもよくできており、作曲、編曲でどんどん能力が上がっている。音楽的にはこのアルバムが最高作だろう。このアルバムで活動休止。
2000年。J・マスシスのバンド、J・マスシス+ザ・フォグのアルバム。バンドといっても事実上J・マスシスがほとんどの音を1人で録音している。他の2人のメンバーはギターとコーラスを担当している。したがってキーボード、ベース、ドラムはJ・マスシスが演奏している。ダイナソー・JRよりも「バック・ビフォア・ユー・ゴー」はポップで軽快なロックン・ロール。ボーナストラックの「キャン・アイ・テル・ユー・ストーリーズ」はホークウィンドの「シルヴァー・マシーン」を思い出す。「悲しみのジェット・プレーン」はジョン・デンヴァーのカバー。
2006年。邦題「ベスト・オブ・ダイナソーJr.」。初期3枚からのベスト盤。「フォーゲット・ザ・スワン」「フリーク・シーン」は2005年のライブ。
2007年。デビュー時のメンバーで再結成。「グリーン・マインド」から「ハンド・イット・オーヴァー」までの範囲内に収まったサウンド。「バック・トゥ・ユア・ハート」「ライトニング・バルブ」はベースのルー・バーロウが作曲し、ボーカルもとっている。6分半ある「ピック・ミー・アップ」はキーボードを効果的に使い、プログレッシブロックの影響を受けたロックのようになっている。「ウィアー・ノット・アローン」は「ハンド・イット・オーヴァー」収録の「アローン」に対応した曲か。
2009年。キーボードを使わず、ギター、ベース、ドラムだけでサウンドを作っている。このアルバムのテーマをギターの表現力の追求に設定したかのようなソロが次々と出てくる。そのソロは70年代のギターヒーローを思わせる粘り気があり、J・マスシスが自らの憧れを素直に反映させたと感じられる。「プランズ」は伝統的なアメリカンロックをなぞったような曲。「アイ・ドント・ウォナ・ゴー・ゼア」の4分以上にわたるギターソロは圧巻だ。
2012年。オープニングの「ドント・プリテンド・ユー・ディドント・ノウ」のイントロからキーボードを使い、前作とは異なる方針でアルバムを作ったことを明示するが、キーボードを使った曲は少ない。ルー・バーロウが作曲した「ルード」は60年代ポップスのような曲調。アルバムで最も長い「シー・イット・オン・ユア・サイド」は前作の「アイ・ドント・ウォナ・ゴー・ゼア」の路線。フェードアウトしている「ウォッチ・ザ・コーナーズ」なども、フェードアウトしなければこれに近いサウンドになっていただろう。全体としては「ビヨンド」と「ファーム」の中間にある。ボーナストラックの「ブラック・ベティ」はラム・ジャムのカバー。ピーター・フランプトンの「ショー・ミー・ザ・ウェイ」、フライング・ブリトウ・ブラザーズの「ホット・ブリトウNo.2」とともに、J・マスシスの音楽的ルーツが70年代ロックにあることを物語る。
2016年。ギターの音が太くなり、前向きな曲が増えている。声を張り上げず、技巧を見せることのなかったJ・マスシスが、メロディーをうまく取ろうとするように歌っている。サウンドとボーカルの変化で、全体の印象がフー・ファイターズに近くなっている。ロックバンドとしての整合感はこれまでで最も高いだろうが、J・マスシスの奔放なギターや適当なボーカルもバンドの特徴だったので、好みは分かれるかもしれない。「アイ・ウォーク・フォー・マイルズ」はブラック・サバスのようなヘビーロック。