1980年。ギター2人の5人組。ニュー・ウェイブ・オブ・ブリティッシュ・ヘビーメタルの中では早いデビューで、79年にはシングルを出していた。若さがあふれる制御のとれた勢いがあり、「ハロー・アメリカ」というなじみやすい曲も2曲目にあって、売れる条件を兼ね備えている。A、B各面の最後にはそれぞれ「ブリティッシュ神話の果てに」「ハードロック・ヒーロー宣言」という邦題がつき、レコード会社の力の入れようが分かる。「ロック・ブリゲイド」「ウェイステッド」収録。アルバムは全英15位、全米51位、「ウェイステッド」は全英61位、「ハロー・アメリカ」は45位。
1981年。音楽性だけを見ればキッスに近いものがある。ボン・ジョビと同様、あまり売れなかった2作目だが、プロデューサーにロバート・ジョン・マット・ランジを起用したことはよかった。「ブリンギン・オン・ザ・ハートブレイク」収録。アルバムは全英26位、全米38位、200万枚。「ブリンギン・オン・ザ・ハートブレイク」は全米61位。
1983年。邦題「炎のターゲット」。ギターの1人が交代し、ガールからフィル・コリンが加入。キーボードを本格的に導入し、コーラスも厳密に制御されている。ドラムを含めて、サウンドが人工的で、これがハードロック・ヘビーメタルの荒々しさをそいでいると感じられる部分もあるが、逆にハードロックなのにうるさく感じないという評価も得て特大ヒットにつながった。もちろん、それには曲がずば抜けてすばらしいという前提がある。「ロック!ロック!」収録。全英18位、全米2位、900万枚。「フォトグラフ」は全英66位、全米12位、「ロック・オブ・エイジ」は全英41位、全米16位、「フーリン」は全米28位。
1987年。前作を上回る驚異的ヒットを記録。80年代のハードロック・ヘビーメタル・ブームでは最も成功したイギリスのバンド。アメリカでは12曲のうち7曲もシングルカットされた。サウンドは前作と同じで、曲はどれも覚えやすい。覚えやすい曲をこれだけ集めるのは難しい。「ロケット」はアフリカのリズム。84年にドラムのリック・アレンが事故で腕を切断している。アルバムは全英1位、全米1位、1200万枚。両国で2年間チャートに入る長期ヒット。「ウィメン」は全米80位、「アニマル」は全英6位、全米19位、「シュガー・オン・ミー」は全英18位、全米2位、「ヒステリア」は全英26位、全米10位、「アーマゲドン」は全英20位、全米3位、「ラブ・バイツ」は全英11位、全米1位、「ロケット」は全英15位、全米12位。
1992年。ギターのスティーブ・クラークが死亡し、4人編成になった。プロデューサーは変わったがサウンドはあまり変わらない。ただ、すでにグランジ・ロック、オルタナティブ・ロックのブームだったので、前作ほどは売れなかった。曲はやや小粒か。アルバムは全英1位、全米1位、300万枚。「レッツ・ゲット・ロック」は全英2位、全米15位、「メイク・ラブ・ライク・ア・マン」は全英12位、全米36位、「ハブ・ユー・エバー・ニーディッド・サムワン・ソー・バッド」は全英16位、全米12位、「ヘブン・イズ」は全英16位、「トゥナイト」は全英13位、全米62位、「スタンド・アップ(キック・ラブ・イントゥ・モーション)」は全米34位。
1992年。シングル盤。「ミス・ユー・イン・ア・ハートビート」はフリーのボーカル、ポール・ロジャースのバンド、ザ・ロウのカバーで、フィル・コリンが作曲している。「アクション」はスウィートのカバー。
1993年。シングルのB面、ボーナストラック等を中心に構成し、ほとんどの曲を再録音している。企画盤。ホワイトスネイクのギター、ビビアン・キャンベルが加入し、再び5人編成になった。「アクション」はスウィートの、「オンリー・アフター・ダーク」はミック・ロンソンのカバー。全英6位、全米9位。「トゥー・ステップス・ビハインド」は全英34位、全米12位、「アクション」は全英14位。
1993年。シングル盤。アルバム未収録曲の「S.M.C.」はアコースティックギターによる1分のインスト曲。
1995年。ベスト盤。日本盤はライブを含む2枚組盤とベストのみの版がある。新曲2曲収録。2枚組のブックレットは資料価値が大きい。ライブではボーカルのジョー・エリオットがよく歌っている。全英3位、全米15位、300万枚。「ラブ・アンド・ヘイト」は全英2位、全米58位。
1996年。サウンドが大きく変わり、グランジ・ロック風だ。ボーカルはヒステリックに叫んだりしないが、無機質に処理されている。ギターはグランジ・ロック風の歪んだ音。東洋風の音も入っている。後半の曲は音がシンプルでミドルテンポなのでグランジ・ロック風とは違う方向でサウンドが変わっている。「ギフト・オブ・フレッシュ」収録。日本盤はライブ盤を含む2枚組版がある。全英5位、全米14位。「スラング」は全英17位、「ワーク・イット・アウト」は22位、「オール・アイ・ウォント・イズ・エブリシング」は38位、「ブリーズ・ア・サイ」は43位。
1999年。「アドレナライズ」のころのサウンドに戻った。曲のイントロにポップなサウンド処理を施しているところがあるが、ギター、ドラム、コーラス、曲調のどれもが「炎のターゲット」から「アドレナライズ」の路線。過去のヒット曲を思い出させるフレーズがところどころに聞こえる。オープニング曲の「デモリション・マン」で最後のギター・ソロを弾いているのはF1レーサーのデーモン・ヒル。全英11位、全米11位。「プロミセス」は全英41位、「グッドバイ」は54位。
1999年。シングル盤。5曲収録。「俺の回転花火」はアリス・クーパーのカバー。
2002年。「ユーフォリア」と「スラング」の中間的なサウンド。メロディーやコーラスは「ユーフォリア」だが、ギターは「スラング」。サウンドもややシンプルで、アコースティック・ギターの音が頻出する。ミドルテンポがほとんどで、ハードロックの快活さが薄い。
2006年。ロックの名曲のカバー集。T・レックス、デヴィッド・ボウイ、ロキシー・ミュージック、スウィートは70年代前半に全盛期を迎えたグラムロック。バッドフィンガー、エレクトリック・ライト・オーケストラ、モット・ザ・フープル、フェイセズも同時期。選曲が70年代前半のイギリスのロックに集中しているのはデフ・レパードが思春期によく聞いていたからだろう。ジョン・コンゴスの「ステップ・オン」は意外な選曲だが、マッドチェスターのハッピー・マンデーズもこの曲をヒットさせていることを考えると、イギリスでは広く聞かれたスタンダード曲になっているのかもしれない。
2008年。前向きでオーソドックスなロックン・ロール。「炎のターゲット」「ヒステリア」「アドレナライズ」の路線を期待する人は、高い評価になるだろう。「ヒステリア」のように、少しだけ音楽的に突き抜けた曲が何曲かあるというわけではないが、ロックの楽しさ、かっこよさを無難に編曲し、目立った音楽的挑戦を避けている。80年代後半はそうした挑戦がいい方向に作用し、ハードロック・ブームに乗って大きな成功になったが、今回は粒ぞろいの曲を並べた印象だ。カントリー歌手のティム・マッグロウと共演したことは、挑戦とは違う質がある。ティム・マッグロウはカントリー音楽ですでに大きな成功を得た人であり、共演しても聞き手にスリルや緊張感をもたらしにくい。異なるジャンルのものを2つ共演させて新しい可能性を引き出す試みは、どちらか一方が予測不可能な存在でないと驚きが少ない。ハードロック、ロックン・ロール、グラム・ロックを中心的なサウンドとし、明るめのメロディーで安心感を与える。もともとメロディーはすばらしく、今回も健在だ。
2011年。ライブ盤。2枚組。スタジオ録音の新曲を3曲収録している。ライブの21曲のうち「ソングス・フロム・ザ・スパークル・ラウンジ」の収録曲は3曲で、「炎のターゲット」「ヒステリア」「アドレナライズ」の選曲が多い。「ロック・オン」はデイヴィッド・エセックス、「アクション」はスウィートのカバー。ライブ録音している会場は広いようで、歓声はよく響く。「シュガー・オン・ミー」のイントロ、「レッツ・ゲット・ロック」のストリングス部分のギター代用などはスタジオ盤と異なる編曲だ。新曲の「キングス・オブ・ザ・ワールド」はロビー・ヴァレンタイン、クイーン風。