ダーク・ムーアはスペイン出身のヘビーメタルバンド。5、6人編成。2007年から4人編成。当初ボーカルは女性、4枚目の「ダーク・ムーア」から男性となっている。ヨーロッパの伝統をサウンドに反映したドラマティックなヘビーメタル。デビュー時はスペインから出てきた久々の高水準のヘビーメタルバンドだった。
1999年。ギター2人、キーボードを含む6人編成。ボーカルは女性。スペイン出身。幻想文学を歌詞に取り、サウンドはヨーロッパ型ヘビーメタルとなっている。ボーカルは力強さを持ち、特に女性であることを強調しない歌い方。ギターやキーボードはクラシックに傾いたメロディーで、スペインのバンドにしては北欧、中欧のバンドに見られる要素を多分に持っている。「コール」はクトゥルー神話。日本盤は2005年発売。
2001年。邦題「ホール・オブ・ジ・オールデン・ドリームス」。サウンド全体が厚くなり、特に各楽器の音とメロディーが明確に聞き取れるようになった。ボーカルとキーボードが向上し、よりドラマチックな響きになっている。歌詞はフランスに関する曲が複数あり、ジャケットや「ベルズ・オブ・ノートル・ダム」を見る限りは中世ヨーロッパのゴシック文化的世界に傾倒している。ノートル・ダムはフランスやその他の有名な寺院を特定しているわけではなく、一般的な教会や聖堂を抽象的に表している。「サムホエア・イン・ドリームス」は指輪物語。このアルバムで日本デビュー。
2002年。前作をさらに上回る内容。ヨーロッパ型ヘビーメタルでは傑作の部類に入る。序曲から本編に続く曲が3曲ある。ほとんどの曲がスピーディーで、ミドルテンポは少ない。「ディーズ・イラエ(アマデウス)」はモーツァルトを題材にしており、アマデウスはモーツァルトの名前。ディーズ・イラエはモーツァルトが最後に作曲した作品である「レクイエム」の絶筆した部分。コーラスもレクイエムを多分に意識している。「ニュー・ワールド」収録。
2003年。キーボードが抜け5人編成。アコースティック・ギターを使った新曲4曲と各国のボーナストラック等4曲を収録。新曲はキーボードではなくストリングスを使っている。「エコーズ・オブ・ザ・シーズ」は弦楽器によるインスト曲で、バッハのトッカータとフーガニ短調に似たフレーズが出てくる。有名な前半部分ではなく後半を使用か。
2003年。ボーカル、ギター、ドラムが交代。ボーカルは男性になった。キーボード奏者はいないが、キーボードやストリングス、合唱は前作並に用いている。ボーカルは前任者と似ており、特に違和感はない。前作と最も異なっている点は歌詞であろう。デビュー盤は北欧神話の影響があり、「ホール・オブ・ジ・オールデン・ドリームス」以降は中世から近代の中欧に題材を求めていた。このアルバムでは、バンドの出身国スペインの歴史的英雄であるフェリペ2世、スペインの代表的怪奇映画監督のポール・ナッシーについて歌っており、母国に対する愛着や自尊心が感じられる。7曲目の「オーヴァーチュア」から11曲目の「ザ・ゴースト・ソード」までの5曲は「アッティラ」というタイトルでひとまとめにされている。「アッティラ」は古代ローマ帝国に侵攻したフン族の王。現在のヨーロッパ世界を形成するゲルマン人中心の西欧のきっかけを作った人。「ザ・ダーク・ムーア」はバンド自身について歌っており、「ホール・オブ・ジ・オールデン・ドリームス」収録の「ベルズ・オブ・ノートル・ダム」と密接につながっている。作詞した人は同じ。
2005年。ギターが抜け4人編成。ドラムがキーボードを兼任。前作の路線。「シルバー・キー」の間奏はモーツァルトの交響曲第25番ト短調の第1楽章ではないか。「ユリウス・シーザー」の次の曲に出てくる「アリー・ジャクタ」はラテン語の「Alea Jacta Est」で「賽は投げられた」というカエサル(ユリウス・シーザー)の言葉。「四季(冬)」はヴィヴァルディの作曲。
2007年。前作までのサウンドを踏襲している。男女混声らしきコーラスのグループと女声ボーカルが参加し、曲のサビでボーカル・ハーモニーを厚くする。管弦楽が薄いラプソディのイメージ。「デヴィル・イン・ザ・タワー」は途中で無伴奏の重唱が入る。9曲目までは主要なクラシック曲を使わず、10曲目の「ザ・ムーン」で3曲使う。イントロから5分まではベートーベンの交響曲第5番第1楽章、5分からピアノソナタ第14番「月光」、8分から交響曲第5番第4楽章の冒頭が出てくる。ボーナストラックはモーツァルトのトルコ行進曲を演奏したインスト曲。何の工夫もなく演奏しており、ボーナストラックレベルの質。
2008年。クラシックと神話伝承を題材とし、ヘビーメタルとオーケストラで演奏する。前作を継承している。オープニング曲はチャイコフスキーの「白鳥の湖」を編曲し、8分にまとめた。これ以外の曲は4分程度。シェークスピアの「ハムレット」、ファウスト伝説、ギリシャ神話のオルフェウス、ホメロスの「オデュッセイア」等が題材にとられている。キーボードをほとんど使わず、オーケストラと合唱を用いてドラマチックに仕立てているので大仰だ。ヨーロッパ人の自己意識、所属確認を典型的な形でサウンドにしている。
2010年。出身国であるスペインを題材にした曲と、一般的な内容の曲に分かれる。スペインに関連した曲は従来の大仰なサウンドが多い。「ジャスト・ロック」は珍しくロックン・ロール的なノリのある曲だ。「リチュアル・ファイア・ダンス」はファリャのバレエ音楽「恋は魔術師」の「火祭りの踊り」。オープニング曲の「ガディール」はファリャの出身地。「ミオ・シド」は戦士についての曲なので、イントロにホルストの組曲「惑星」の「火星、戦争をもたらす者」を使っている。「AH!レッチド・ミー」はビリー・シーンのようなベースソロが聞ける。ボーナストラックの「エ・ルチェヴァン・レ・ステッレ~星は光りぬ」はプッチーニの歌劇「トスカ」の「星は光りぬ」。
2013年。シンセサイザーによるオーケストラ風の編曲は残るが、クラシックの要素を徐々に減らしている。女性歌手は参加するが、クラシック曲の目立った借用はない。インスト曲はオーケストラ風のサウンドが強いため、ボーカルがそのような編曲を望んでいないようだ。クラシック的な技巧を使わないボーカルなので、いずれは分裂するだろう。
2015年。ベースが交代。クラシック風の要素は少ない。イントロに続くオープニング曲はストリングスを模したシンセサイザーを使うが、「ビヨンド・ザ・スターズ」はエドガイやアヴァンタジアに通じる明るめのヘビーメタルだ。参加している合唱隊はむしろポップスやソウルに近い。「ボン・ボヤージュ!」は2010年代以降のソナタ・アークティカに近い。8分ある「ゼアーズ・サムシング・イン・ザ・スカイズ」は後半がクイーン風。
2018年。バグパイプ、バイオリン、フルート、オルガンを使い、スペインのバンドでありながらイギリス、アイルランド、ケルトの雰囲気を取り入れている。バイオリン、フルートを多用してケルト風にするのはアルバムのアイデアとして安易だろう。思いつきでケルト風にしたならば、文化のファッション的利用と言われても仕方がない。「ザ・スペクターズ・ダンス」は久しぶりにスピーディーなヘビーメタルとなっている。