COMPUTER MAGIC

  • アメリカ、ニューヨークのダニエル・ジョンソンによる自宅録音プロジェクト。

SCIENTIFIC EXPERIENCE

2012年。ほぼすべての音を自宅のシンセサイザー、エレクトロニクスで録音している。最新の機器ではなく、音を細かく制御しているわけではないのでサウンドは古風なキーボード音が占める。他のエレクトロ音楽に比べて、ベースがはっきりと描かれ、1つの音色を長く使う。テンポもやや遅い。したがって、2010年代のエレクトロ・ダンス・ミュージックのサウンドではない。

PHONETICS

2013年。「ヴィクトリー・ジン」「トリニティ」は1970年代後半にイギリスのプログレッシブ・ロックがポップ化していく過渡期の、古風なシンセサイザーがポイントになっている。このシンセサイザー音を若い女性が使うと、プログレッシブ・ロックでもなくサイケデリック・ロックでもなく、ニューウェーブを感じさせる新しい音として聞かれることになる。男だと多分異なる聴かれ方をするだろう。7曲で28分。

MINDSTATE

2015年。11曲で43分はアルバム並み。1人で録音しているとしても、近年の技術ならもっと派手に緻密に音を構成できるだろうが、その方向に走らずにあえて1人録音らしさを感じさせて独自性を保つ。両手で操作できる程度の音しか出していない。ボーカルメロディーは一般的なポップスにあるような盛り上がりや覚えやすいサビがないことが多い。「アイム・ザ・プロ」はボーカルを多重録音している。「ランニング」収録。3枚の日本盤はすべて日本独自盤。

1
DAVOS

2015年。80年代前半のニューウェーブ、もしくは同時期の日本のテクノポップのような、あらかじめ用意された音しか出ないキーボードを使ったようなサウンド。デビューEPのころから変わらず、力を抜いた歌い方で、過度に力強くなったり情緒的になったりしない。ギターとパーカッションはゲストミュージシャンが参加しているが、曲のほとんどを占めるキーボード、リズムはコンピューター・マジックが録音している。「ビー・フェア」「ギヴ・ミー・ジャスト・ア・ミニット」は80年代風テクノポップを思わせる曲に、脱力したボーカルと多重録音のコーラスが乗る。「バイオニック・マン」はシンセサイザーは70年代の古風な音だ。「ファズ」収録。

OBSCURE BUT VISIBLE

2016年。楽器音もボーカルも浮遊感を強めたように聞こえるが、はっきりした音と曖昧さを持つ音を同時に使うことで適度のビート感を保っている。「ディメンションズ」はコンピューター・マジックのイメージ通りの曲。ボーカルが奥に引っ込む「ロンリー・ライク・ウィ・アー」はベースがよく効いている。ジャンベの音をハードに使う「ニュー・ジェネレーションズ」は1分半しかないので、曲の断片のまま発表したように見える。「ゴーン・フォー・ザ・ウィークエンド」は歪みの効いたエレキギターが珍しい。日本盤は7曲で24分。

SUPER RARE

2017年。未発表曲等を集めた企画盤。アルバムと同じくらいの曲数がある。日本でテレビコマーシャルに使われた「クラウド・シティ」「プラネット・オブ・ドリームズ」を収録。日本盤は2018年発売。

2
DANZ

2018年。これまでと同様のサウンド。日本では、白人の若い女性が1人でシンセサイザーを操っているところにかっこよさと安心感を覚える人が多いのかもしれないが、他のポップなシンセサイザー奏者と異なる音楽的な独自性があるかと言えば、特にない。シンセサイザーやエレクトロニクスで近未来の明と暗を描くというのは、ポピュラー音楽としては1970年代からありふれている。アメリカを含む世界的な人気がほとんどなく、日本でのみ人気があるのは、多分にダニエル・ジョンソンンのイメージによるところが大きいだろう。つたなくても頑張る姿に共感するのも日本だけの審美眼だ。映像と音楽が切り離せなくなっている現在では、白人の若い女性が1人でシンセサイザー音楽を完結させていることも含めて音楽と呼べるのかもしれないが、世界的認知を得るには他者の力を借りた方がいいだろう。