COLDPLAY

コールドプレイは2000年以降のイギリスのバンドでは最も成功したバンド。ピアノとストリングスを多用し、メロディーを聞かせるロックとして古風なサウンドを好むファンから支持された。「X&Y」は2005年に世界で最も売れたアルバムとなった。代表曲は「イエロー」「クロックス」「美しき生命」「パラダイス」など。

1
PARACHUTES

2000年。ボーカル兼キーボードを含む4人編成。オアシスや後期のブラーにみられるようなオルタナティブ・ロック風サウンドではなく、音のひずみや濁りがほとんどない。ギターとピアノがきれいに響く。明るい曲やポップな曲は少なく、ボーカルは力強さを避けているような歌い方。曲やサウンドに合わせた歌い方とも言える。陰鬱さはレディオヘッドの「OKコンピューター」に似ているが、バンドサウンドは伝統的なアンサンブルで、前衛的編曲がない分聞きやすい。「イエロー」収録。全米51位、全英1位、850万枚。「イエロー」は全英4位。

2
A RUSH OF BLOOD TO THE HEAD

2002年。邦題「静寂の世界」。オープニング曲から前作を大きく上回る。キーボード、ストリングスがすばらしく、いい曲をさらによくしている。楽しさではなく、やや希望のある明るさがあり、曲が前向きだ。「イン・マイ・プレイス」「クロックス」はすばらしい。アコースティックギターとピアノを多用するサウンドは、エレクトロニクス全盛の時代には古風だが、幅広い層に安心感を与える。日本盤の邦題は原題の訳ではなくアルバムの雰囲気を表しており、原題よりもよくなっている。全米5位、全英1位、1500万枚。「イン・マイ・プレイス」は全英2位、「クロックス」は全英9位。

 
CLOCKS EP

2003年。シングル。全曲がアルバム未収録曲。「イン・マイ・プレイス」と「イエロー」はライブだが「イエロー」は歓声がほとんどない。

 
LIVE 2003

2003年。ライブ盤。「イエロー」「クロックス」「イン・マイ・プレイス」を3曲連続で演奏する後半はすばらしい。全米13位、全英46位。

 
SPEED OF SOUND

2005年。シングル盤。アルバム未収録の2曲はアルバムに収録されていてもよかった。全米8位、全英2位。

3
X&Y

2005年。アコースティック・ギターとピアノの多用を続けながら、高い音階のエレキギターを増やした。「ホワイト・シャドウズ」「トーク」は高揚感の上昇に貢献している。ドラムが力強くなり、エレキギターとの相乗でロックの印象が大きくなった。世界的にヒットし、この年の世界最多販売枚数を記録している。「トーク」はクラフトワークの「コンピューター・ラヴ」のメロディーを使用している。全米1位、全英1位、1300万枚。

 
FIX YOU

2005年。シングル盤。全米59位、全英4位。

 
TALK

2006年。シングル盤。アルバムとはバージョン違い。全米86位、全英10位。

 
THE HARDEST PART

2006年。シングル盤。「ハウ・ユー・シー・ザ・ワールド」はライブ・バージョン。

4
VIVA LA VIDA OR DEATH AND ALL HIS FRIENDS

2008年。邦題「美しき生命」。ボーカルのクリス・マーティンが高音で歌う部分を減らし、音階の重心が下がった結果、安定感が増している。ストリングスを背景音ではなくメロディーを先導する楽器として使っているのも新しい試みだ。このサウンドの変化は、プロデューサーが「パラシューツ」から「X&Y」まで担当したケン・ネルソンから、アーケイド・ファイアを手掛けたマーカス・ドラヴスに代わったことが大きい。オープニング曲の「天然色の人生」はインスト曲。「42」は静かに入り、徐々にロック調になっていきながら曲も明るくなる。「ラヴァーズ・イン・ジャパン」はシューゲイザー風のギターが終始聞こえる。歌詞に大阪が出てくる。「ヴァイオレット・ヒル」はかなりロック寄り。アルバムタイトル曲はストリングス中心で、サウンドとしてはアルバムの中で浮いている。曲の覚えやすさ、なめらかさは前作通り。ジャケットはドラクロワの「民衆を導く自由の女神」。全米1位、全英1位、1000万枚。「ヴァイオレット・ヒル」は全英8位、「美しき生命」は全米1位、全英1位。

PROSPEKT'S MARCH EP

2008年。「美しき生命」に収録されなかった曲を中心に、リミックス等2曲を追加したEP盤。「天然色の人生2」は「美しき生命」収録のインスト曲「天然色の人生」を発展させ、ボーカルを加えた4分の曲。「グラス・オブ・ウォーター」は「美しき生命」と同時期に録音したことを証明するようなロック。「ロスト+」はジェイ・Zが参加しているが、原曲の「ロスト!」にはほとんど手を入れず、途中からラップを加えている。「ナウ・マイ・フィート・ウォント・タッチ・ザ・グラウンド」は「美しき生命」に収録されなかったことに納得できる消化不良の曲。ジャケットはドラクロワの「ポワティエの戦い」の左下部分。全米15位、全英38位。

 
EVERY TEARDROP IS A WATERFALL

2011年。シングル盤。タイトル曲はキーボード、ギター、ドラムが曲を盛り上げていく。「メジャー・マイナス」は高い音程のコーラスとギターがややサイケデリックだ。全米14位、全英6位。

5
MYLO XYLOTO

2011年。2010年代の傑作として認識されるであろうすばらしいアルバム。プロデューサーは前作に続きマーカス・ドラヴス。暗いモノクロの世界から見えるオープニング曲はアルバムタイトルになっているが、2曲目へのイントロになっている。同様に「M.M.I.X.」「ホープフル・トランスミッション」も次の曲のイントロ。アルバムの前半の曲はイントロがなくても最初の30秒程度が小さな音量になっており、これが聞き手に期待と緊張をもたらす。その後に出てくる清明なサウンドが、ジャケットのようなカラーで前方から向かってくるような雰囲気だ。歌詞のない母音コーラス(ヴォカリーズ)が増え、メロディーを覚えやすいのもいい。「チャーリー・ブラウン」「ウォーターフォール~一粒の涙は滝のごとく」「ハーツ・ライク・ヘヴン」はすばらしい。「プリンセス・オブ・チャイナ」はリアーナが参加している。全米1位、全英1位、800万枚。

 
LIVE2012

2012年。ライブ盤。1カ所でのライブではなく、6カ所の会場から選曲している。世界的バンドになったので歓声が大きい。CDは15曲、DVDは16曲収録。「プリンセス・オブ・チャイナ」はリアーナと共演。

6
GHOST STORIES

2014年。コールドプレイはジャケットのデザインにアーティストが大きく関わる。それを考えれば、このアルバムの雰囲気はジャケットがある程度表していると言える。暗さの中に若干の光明があるというサウンドとメロディー。前作からは雰囲気が大きく変わり、陰影のあるサウンドが支配的だ。悲しいというよりは追憶に近いメロディーだ。リズムはエレクトロニクスを多用するが、メロディーはシンセサイザーを使いつつもストリングスやピアノ等アナログ楽器に似せていることが多い。プロデューサーはアデル、フォスター・ザ・ピープルで有名なポール・エプワース。「ア・スカイ・フル・オブ・スターズ」は唯一アップテンポの曲。全米1位、全英1位、395万枚。

7
A HEAD FULL OF DREAMS

2016年。NE-YO、リアーナのプロデューサーで有名なスターゲイトがバンドと共同で制作しており、「ヒム・フォー・ザ・ウィークエンド」「アドヴェンチャー・オブ・ア・ライフタイム」「カレイドスコープ」「アーミー・オブ・ワン」などには、ヒップホップや2000年以降のソウル風のサウンドがある。以前、「X&Y」から「美しき生命」でサウンドが変化したときにはバンド初のプロデューサー変更があり、バンド側の大きな挑戦だった。今回、初めてソウル系プロデューサーと制作したことは、その時以来の挑戦だと言える。ただ、日常的にヒップホップやソウルを聞いている人にとってはやや未聴感に乏しいかもしれない。オープニング曲は「マイロ・ザイロト(MX)」に入っているような曲。「エヴァーグロウ」はピアノを軸とした「X&Y」以前のミドルテンポ曲だが、クリス・マーティンのボーカルは高音をほとんど使わない。「ゴースト・ストーリーズ」に比べれば全体的に明るいが、「マイロ・ザイロト(MX)」ほどではない。「カレイドスコープ」はオバマ米大統領の歌がサンプリングされている。「アップ&アップ」はノエル・ギャラガーがギターで参加。ビヨンセも「ヒム・フォー・ザ・ウィークエンド」「アップ&アップ」に参加している。全米2位、全英1位。

KALEIDOSCOPE EP

2017年。EP盤。5曲収録。「オール・アイ・キャン・シンク・アバウト・イズ・ユー」は「X&Y」のころの緊張感がある。チェインスモーカーズの「サムシング・ジャスト・ライク・ディス(トーキョー・リミックス)」は実質的にライブバージョンとなっており、歓声が大きい。

LIVE IN SAO PAULO・LIVE IN BUENOS AIRES・A HEAD FULL OF DREAMS

2018年。ライブ盤。ブエノスアイレスのライブCD2枚、サンパウロのライブDVD、20年間のドキュメンタリーDVDの4枚組。ブエノスアイレスとサンパウロは選曲がやや違う。南米の公演なので歓声が大きい。南米なのでスペイン語の曲を演奏している。チェインスモーカーズと共演した「サムシング・ジャスト・ライク・ディス」も演奏している。2枚で114分あるので、ライブのほぼ全体を収録しているとみられる。

LOVE IN TOKYO

2018年。ライブ盤。東京での公演。ブエノスアイレス、サンパウロの公演と同じツアーなので曲はほぼ同じように選ばれている。「サイエンティスト」「フィックス・ユー」「サムシング・ジャスト・ライク・ディス」は東京の方が盛り上がる。最後の「アップ&アップ」には「エンド・クレジット」に相当する部分が含まれている。日本のみの発売。

8
EVERYDAY LIFE

2019年。前半をサンライズ、後半をサンセットとし、8曲ずつ配置している。アルバムジャケットには英語のタイトルの上にペルシャ語のタイトルも書かれている。サンライズは太陽、サンセットは月が描かれていることから、キリスト教とイスラム教、西洋と中東を対比していることは明らかで、コールドプレイが初めて本格的に政治を意識したアルバム、といってよいだろう。アフリカの音楽やアラビア語やレゲエを単に音楽的に取り込むのではなく、社会背景を含めた文化、あるいはメッセージ性とともに取り込んでいる。そのため、通常のアルバムでは収録しないような室内楽曲や暗めの曲が多い。「バニ・アダム」はペルシャ語で表記されており、日本語では「アダムの子どもたち」となる。「アラベスク」はフェミ・クティのバンドが参加しており、コールドプレイというよりもフェミ・クティのバンドの演奏となっている。「ブロークン」はU2の「魂の叫び」に入っている「終わりなき旅」を思わせる。「オーファンズ」はマックス・マーティンが関わっているのでややポップだ。全米7位、全英1位。

9
MUSIC OF THE SPHERES

2021年。シンセサイザー、エレクトロニクスを全面的に駆使し、音の開放感が大きいアルバムとなっている。ロック由来のバンド感覚が維持されており、70年代前半のサイケデリックロック、プログレッシブロック、70年代末から80年代前半のニューウェーブを思わせる。音楽を聴く前にアルバムジャケットを見て、そのイメージに引っ張られるまでもなく、宇宙の壮大さ、無限性、人間精神の偉大さを感じさせる。曲のタイトルも「ヒューマン」「ユニヴァース」「インフィニティ」と壮大だ。90年代、2000年代に大量のヒット曲を作曲しているマックス・マーティンがプロデューサーになっており、多くの人に安心感と期待感を与える。マックス・マーティンは曲をドラマチックかつ印象的に編曲する技術に優れているため、コールドプレイのメロディーとの相乗効果は高い。「ハイヤー・パワー」は東洋の楽器を模した音を織り込んでいる。「ヒューマン・ハート」はほぼアカペラ。「ピープル・オブ・ザ・プライド」はトランプを思わせる人が歌詞に出てくる。金管楽器をギターと同様にリズム楽器風に使い、グラムロックへの敬意を感じさせる。「コロラチューラ」は10分を超えるが、曲としては初期のコールドプレイに近い。「レット・サミバディ・ゴー」はセレーナ・ゴメス、「ヒューマン・ハート」はウィ・アー・キング、「マイ・ユニヴァース」はBTSと共演している。全米4位、全英1位。