THE CHEMICAL BROTHERS

ケミカル・ブラザーズはトム・ローランズ、エド・シモンズの2人によるDJグループ。イギリス、マンチェスター出身で、80年代末のいわゆるセカンド・サマー・オブ・ラブの時期に結成されている。ポップなメロディーと、ロックに近いサウンド、大物アーティストとの共演で人気を獲得。ブレイクビーツとロック寄りのサウンドで、ビッグ・ビートと呼ばれることもあるが、聞き手(踊り手)はサウンドの呼び名をあまり気にしない。代表曲は「ヘイ・ボーイ、ヘイ・ガール」「セッティング・サン」「ブロック・ロッキン・ビーツ」「スター・ギター」など。日本ではフジロックフェスティバルの常連アーティスト。

1
EXIT PLANET DUST

1995年。邦題「さらばダスト惑星」。DJ2人のグループ。イギリス・マンチェスター出身。オープニング曲の「リーヴ・ホーム」はベースの音が歪み、かなりロックに近いサウンド。同様に「ソング・トゥ・ザ・サイレン」もドラムに似せたロック風のビートが続く。テクノとロックを近づけたグループだとよく言われるが、イメージに合ったサウンドを持っている。ボーカルらしいボーカルがあるのは11曲のうち2曲。

 
LEAVE HOME

1995年。「リーヴ・ホーム」と「ライフ・イズ・スウィート」がそれぞれアルバム・バージョンとリミックス2曲ずつで6曲。ほかにアルバム未収録曲1曲で計7曲収録。「リーヴ・ホーム」はアンダーワールド、「ライフ・イズ・スウィート」はダフト・パンクがリミックスをしている。組み合わせとしてはとても豪華だ。日本盤の帯は面白い。

 
SETTING SUN

1996年。シングル盤。ボーカルはオアシスのノエル・ギャラガー。

2
DIG YOUR OWN HOLE

1997年。前作よりざらついたサウンドになり、ベースがよく効いた音になった。いわゆるインダストリアル・ロックや電子音の多いミクスチャー・ロックに接近している。「ブロック・ロッキン・ビーツ」「ディグ・ユア・オウン・ホール」「セッティング・サン」「ロスト・イン・ザ・K・ホール」「ザ・プライベート・サイケデリック・リール」はその傾向が強い。ロックのファンを多く取り込み、大ヒットした。「ゲット・アップ・オン・イット・ライク・ディス」はいいアクセントになっている。代表作。「セッティング・サン」はオアシスのノエル・ギャラガーと共作。

 
BLOCK ROCKIN' BEATS

1997年。シングル盤。ドラムが生で演奏されているようなロック・サウンド。イントロはピンク・フロイドの「光を求めて」の冒頭を引用か。「プレスクリプション・ビーツ」「モーニング・レモン」はアルバム未収録曲。

 
ELEKTROBANK

1997年。シングル盤。「ノット・アナザー・ドラッグストア」はアルバム未収録曲。

3
SURRENDER

1999年。エレクトロニクスの割合が増えたが、アルバムの中盤にいい曲が並んでいる。「レット・フォーエヴァー・ビー」はオアシスのノエル・ギャラガーと共作、「ガット・グリント」は70年代のディスコを思い出させる懐古的なサウンド。「HEY BOY HEY GIRL」は分かりやすいフレーズのボーカルで大ヒットした。ニュー・オーダーのバーナード・サムナー、プライマル・スクリームのボビー・ギレスピーが参加。

 
HEY BOY HEY GIRL

1999年。シングル盤。ケミカル・ブラザーズの代表曲で、同じ歌詞の繰り返しで意味も分かりやすいので大ヒットした。

 
LET FOREVER BE

1999年。シングル盤。アルバム未収録曲2曲収録。

 
OUT OF CONTROL

1999年。シングル盤。5曲のうち4曲は「アウト・オブ・コントロール」。

 
MUSIC:RESPONSE

2000年。シングル盤。70年代の人が描く近未来のサウンド。電子音で作っているが、やや古風なイメージがある。ライブ2曲収録。

 
IT BEGAN IN AFRICA

2001年。シングル盤。

4
COME WITH US

2002年。再びロック寄りになった。オープニング曲は未来を感じさせるサウンドで、強いビートを刻む。「イット・ビガン・イン・アフリカ」は民族音楽風のパーカッションを強調し、西洋人が抱くアフリカの単純なイメージをそのまま曲にしたようなサウンド。「ザ・テスト」はザ・ヴァーヴのリチャード・アシュクロフトがボーカルをとる。

 
THE TEST/COME WITH US

2002年。シングル盤。タイトルの2曲はともにエディット・バージョンで、大したアレンジは行われていない。3曲目の「カム・ウィズ・アス」はファットボーイ・スリムがリミックス。

 
COME WITH US

2002年。日本限定のEP。「スター・ギター」はリミックス。「H.I.A.」はアルバム未収録曲。「テンプテーション/スター・ギター」はメドレーで、テンプテーションはニュー・オーダーのカバー。

 
STAR GUITAR

2002年。シングル盤。バージョン違いが4曲とアルバム未収録曲1曲を収録。

 
SINGLES 93-03

2003年。シングル集。新曲2曲を含む。「ザ・ゴールデン・パス」はポップだ。ボーナスディスク付き2枚組は未発表曲2曲、未発表バージョン3曲を含む。

 
THE GOLDEN PATH

2003年。シングル盤。ザ・フレーミング・リップスが参加。ザ・フレーミング・リップスのボーカル兼ギターのウェイン・コインとドラムのスティーヴ・ドローズがボーカルをとっている。

5
PUSH THE BUTTON

2005年。曲を切り裂くように入るシンセサイザーや強力な打突音がロックのビート感を高める。低音から高音へジェットコースター風に上がるキーボードが、気分を強く高揚させる。これまでのよかった部分を強調したかのようなサウンド。

 
GALVANIZE

2005年。シングル盤。「ガルヴァナイズ」は3曲ともアルバムと異なるバージョン。「ライズ・アップ」はアルバム未収録曲。

6
WE ARE THE NIGHT

2007年。前作よりは落ち着いたサウンド。「ドゥ・イット・アゲイン」は中華風。「オール・ライツ・リヴァースト」はクラクソンズが参加。マドンナの「ハング・アップ」を思わせるフレーズが出てくる。

 
BROTHERHOOD-THE BEST OF THE CHEMICAL BROTHERS

2008年。ベスト盤。「キープ・マイ・コンポージャー」「ミッドナイト・マッドネス」は新曲。

7
FURTHER

2010年。邦題「時空の彼方へ」。オープニング曲はビープ音でリズムを形成するサイケデリックなボーカル曲で、12分ある「エスケープ・ヴェロシティ」の長いイントロのようだ。飛行機の離陸のような音が何度も出てきて高揚感を増幅する。「ディゾルヴ」はロック色の強いサウンド。「ホース・パワー」はこれまでにもヒット曲を生んだノリやすいダンス曲。どの曲もリズム・マシーン、シンセサイザーにノイズがかかり、90年代以降のざらつきのあるサウンドと連動している。

 
HANNA

2011年。映画のサウンドトラック盤。映画のために作られた曲なので、踊りやすい曲は少ない。「エスケイプ・ウェーヴフォールド」「コンテナ・パーク」など、20曲のうち5曲程度はライブでも使える。ダフト・パンクの「トロン」と同じく、ケミカル・ブラザーズのサウンドを求めて聞くようなアルバムではない。

8
BORN IN THE ECHOES

2015年。現代のエレクトロ、クラブミュージック、ダンス音楽で定番になっているようなリズムパターンをアルバムの前半でよく使い、聞き手を高揚させる。Q・ティップが参加した「ゴー」はポップ。「アイル・シー・ユー・ゼア」は60年代のサイケデリックを思わせる古風なサウンドで、一般の人にはなじみやすい。「ジャスト・バング」「リフレクション」はこれまでのヒット曲同士をライブでつなげるのにちょうどいいような曲だ。ベックが参加している「ワイド・オープン」はディスコ風のニューウェーブのような曲。日本盤ボーナストラックの「直接的武器」は「ヘイ・ボーイ・ヘイ・ガール」を土台にしたような曲だ。

9
NO GEOGRAPHY

2019年。オープニング曲の「イヴ・オブ・デストラクション」はこれまでのケミカル・ブラザーズの音楽的特徴が織り込まれたポップな曲。日本語の歌詞が出てくる。バリー・マクガイアの「明日なき世界」と同じタイトルで、将来に対する若年層の不安と逃避願望を描く。アルバム最初の3曲で勢いをつけ、中盤で雰囲気の異なる曲を並べ、最後の3曲で再び高揚させる。安定したポップさだ。

10
FOR THAT BEAUTIFUL FEELING

2023年。アルバムの最初から、90年代、2000年代のケミカル・ブラザーズを再現する。不安と酩酊が入り交じった揺らぎのある響き、定形にとどまらず規範から逸脱する不協和音、90年代イギリスの麻薬文化を再現する音響、ポップなボーカルメロディーが、各曲のいたるところでみられる。既に聞き覚えがある大人ので、揺らぎや不協和音が逆に安心感をもたらす。「リヴ・アゲイン」「フィールズ・ライク・アイ・アム・ドリーミング」ではかつてのヒット曲の音を使っており、ライブでの曲のつながりを意識したかのようだ。「スキッピング・ライク・ア・ストーン」はベックが参加。