ボン・イヴェールはフォーク系バンド。アメリカ出身。ボーカル兼ギターのジャスティン・ヴァーノンを中心とする。デビュー時からアルバムの評価が高い。
2008年。ジャスティン・ヴァーノンがほとんど全ての楽器を演奏し、多重録音で完成させている。9曲のうち「フルーム」のドラム、「フォー・エマ」のトランペットとトロンボーンだけが他人による演奏で、他の7曲は主にアコースティックギター、ベース、コーラスで構成する。エレキギター、ドラムを使う曲は少ない。アコースティックギターを弾きながら高めの声で歌い、歌詞のフレーズの間を長く空ける。この間隔が緊張と余韻を生み出し、奥行きのあるサウンドをさらに強調する。同時期にデビューしたフリート・フォクシーズに近い雰囲気がある。日本盤は「ボン・イヴェール、ボン・イヴェール」と同時発売。
2011年。主にドラムとホーンセクションで数人のアーティストが参加し、オープニング曲の「パース」ではその多くが演奏に加わっている。前作はフォーク、シンガー・ソングライターが弾き語りの延長線上で作ったようなサウンドだったが、このアルバムでは楽器の種類を増やし、背景音、持続音も多用する幅広さを持つ。歌詞のフレーズの間隔が長かったり、音を詰め込まずに残響を活用したりするところは前作と変わらない。緊張感があり、持続しているけれども先を予想させないサウンドは、現代の社会環境を音で表しているようでもあり、間隔を空けて置かれている言葉は、親密感の薄れた人間を表している。サウンドが社会、言葉が人間であり、代替されたサウンドのあり方に聞き手の共感が生まれる。アルバム全体がロック調になったとは言えないが、アコースティックギターよりもエレキギターの方が多くなった。曲のタイトルは都市、場所の名前が多い。最後の「ベス/レスト」はキーボードが中心の曲。このアルバムで日本デビュー。
2016年。サウンドを大きく変え、サンプリングと加工されたボーカル、不協和音を含んだ人工的な楽器音がほとんどを占める。前作までとは別のアーティストと認識することもできるが、「22」「29」「666」「8」は「ボン・イヴェール、ボン・イヴェール」の雰囲気を残している。シンセサイザー、エレクトロニクスが中心になると、加工、編集されていない楽器の音が自然な音として浮き上がってくる。ボン・イヴェールがどのような意図でこのアルバムのサウンドを決めたかに関わらず、このアルバムが、デジタル化と均質化、類型化が進む社会でのアナログ的な文化の価値を問うていると解釈できる。「33」の副題が「ゴッド」となっているのは、3がキリスト教の神を示唆する数字だからだろう。「666」の副題が「クロス」、すなわち十字架になっていること、「8」が「サークル」となっていることも宗教的意味を持っている。
2019年。ボン・イヴェールは一般的にフォークバンドとされるが、「22、ア・ミリオン」以降はポップさとバンドアンサンブルを維持した演奏集団となっている。キーボードやストリングス、ホーンセクション、音響的ノイズの響きが制御され、ボーカルハーモニー、非電気的楽器演奏がうまく配置される。このバンドが評価される理由の一つに、バイオリンやトランペットの奏法、音の加工の仕方が現代音楽風に聞こえることがある。科学の進歩が必ずしも社会の発展にはつながらないことが共有された2000年代以降では、現代音楽風であることが人間的アンサンブルに対置されることになる。音楽を編集しようと思えばいくらでもできる時代に、バンドアンサンブルの雰囲気を残しながら、あるいはあえてアンサンブルの人間的側面を感じさせながらバンドサウンドを作ることは、ありきたりながら、技術と人間のバランスを考えさせる。