BATHORY

バソリーはスウェーデンのヘビーメタルバンド。ブラックメタル、バイキングメタルのルーツとされる。事実上、ボーカル兼ギターのクオーソンによるプロジェクト。1988年の「ハンマーハート」はバイキングメタルの最初期の作品。

1
BATHORY

1984年。ボーカル兼ギターのクオーソンのほか、ベース、ドラムを加えた3人で録音。ハードコアの要素をヴェノムの音響に重ねたような曲だが、基盤はハードコアの方にあるだろう。このようなサウンドが当時のレコード会社で録音できたのは、ヴェノムが既にあったからというよりも、パンクの成功によって表現の許容範囲が大幅に広がり、ポストパンクやニューウェーブの一種としてあらゆる音楽がその存在を認められるようになったからだ。不協和音や不快、不道徳、悪趣味は好意的に解釈され、それがさらに表現の自由を広げた。

2
THE RETURN......

1985年。ベースが交代。スラッシュメタル、ハードコアの上に、音階を押し潰した独自のボーカルを乗せた。これがデスメタルの歌唱法の原点となっている。「ザ・ウィンド・オブ・メイヘム」「ベスチャル・ラスト」等は同時代のヘビーメタルのようなギターソロがある。

3
UNDER THE SIGN OF THE BLACK MARK

1987年。クオーソンがベースを兼任するようになった。「ウーマン・オブ・ダーク・デザイアズ」はキーボードも使う。7分近くある「エンター・ジ・エターナル・ファイア」は大陸ヨーロッパの神話にテーマを求めた曲として、バイキングメタル最初の事例とされている。このアルバムで最もかっこいいのは低音コーラスがついた「13キャンドルズ」だろう。

4
BLOOD FIRE DEATH

1988年。ドラムが交代。ベースも加入している。8分半の「ア・ファイン・デイ・トゥ・ダイ」と10分半のアルバムタイトル曲はミドルテンポ。4曲は突進する。「ペース・ティル・デス」のイントロでアリス・クーパーの「スクールズ・アウト」の一節が入る。「ホロコースト」は特にナチス・ドイツには触れていない。むしろ原爆投下のように見える。

5
HAMMERHEART

1990年。6曲のうち4曲が9~11分となり、スラッシュメタルのように疾走する曲はなくなった。クオーソンのボーカルはメロディーが明瞭になり、歌詞にある物語が伝わるように歌う。前作にあった長い曲をこのアルバムで全曲に適用し、スラッシュメタルから脱却した。バイキングメタルを創始したアルバムと認知されるのは妥当なところだ。

6
TWILIGHT OF THE GODS

1991年。ベース、ドラム、キーボードを含め全ての楽器をクオーソンが演奏する。最初の3曲は計30分の一連の曲となっており、これがアナログ盤のA面全体をなす。B面にあたる4曲もアコースティックギターとエレキギターを同時使用しながらミドルテンポで進む。全編を通してコーラスが多い。「ハンマーハート」はイギリスの作曲家ホルストの「木星」の一節、いわゆる「サクステッド」を使っているが、この曲がイギリスで愛国主義的な曲に使われていることを分かった上で、北欧やドイツの古代世界に合った歌詞に変更している。批判性と忠誠性の両面があり、クオーソンがこの曲を収録すること自体に、この時期のヨーロッパの青年の心理と社会性を垣間見ることができる。

7
REQUIEM

1994年。「ブラッド・ファイア・デス」「ハンマーハート」のベース、ドラムが復帰し、3人編成。前作までのバイキングメタル路線から初期のスラッシュメタル、ハードコアのサウンドに戻った。オープニング曲にアルバム全体のイントロを担う部分はあるが、「アウトロ」はなくなっている。

8
OCTAGON

1995年。スラッシュメタル、ハードコアのサウンド。内面の変化や人間性についての歌詞が多くなり、宗教、神話から認識へと移っている。年齢を重ねて精神的に成熟しつつあり、作風は過渡期に入っていると言える。キッスの「デュース」をカバーしていることも、バソリーのファンを混乱させる。

9
BLOOD ON ICE

1996年。クオーソンが創作した物語に基づくコンセプトアルバム。北欧神話、アーサー王物語などを参考にした叙事詩となっている。雰囲気も「ハンマーハート」に近い。「ワン・アイド・オールド・マン」では老人の語りが入る。アコースティックギター、コーラスの多用、曲ごとの長さの大きな差は、ドイツ、北欧を中心に流行するストーリー性の高いアルバムと同じ。このアルバムから、ヨーロッパ全体で発売されなくなり、ドイツやロシアなど国ごとの発売になった。スウェーデンは2003年、ヨーロッパは2014年発売。

10
DESTROYER OF WORLDS

2001年。全ての楽器をクオーソンが演奏する。一般的なヘビーメタルが多い。歌詞とサウンドからすれば「オード」はバイキングメタル、「ブリーディング」「クロム」はデスメタル。中世ヨーロッパのペストを歌う「ペスティレンス」はミドルテンポのヘビーメタル。「リバティー・アンド・ジャスティス」「キル・キル・キル」「ホワイト・ボーンズ」は社会性を帯びている。このアルバムのテーマの一つは戦争だろう。アルバムタイトルは原爆開発に関わった物理学者オッペンハイマーの言葉の一部。タイトル曲の歌詞には広島に原爆が投下された日付も出てくる。ヴェノムは1991年の「テンプルズ・オブ・アイス」で「トリニティMCMXLV 0530」を収録し、オッペンハイマーの原爆開発の核実験(トリニティ実験)を扱っている。「109」はドイツの戦闘機メッサーシュミット109について。「デイ・オブ・ラス」は過去のアルバムのタイトルが複数出てくるので、このアルバムでいったん総括したと言える。スウェーデンは2007年、ヨーロッパは2014年発売。

11
NORDLAND I

2002年。バイキングメタルに戻った。コーラスの多用、四重、五重のギター、アコースティックギターの弾き語り等はヨーロッパの同系統のヘビーメタルと同じだが、キーボードはほとんど使わない。アップテンポになるのは「グレイト・ホール・アウェイツ・ア・フォールン・ブラザー」の前半くらいだ。当初はスウェーデンだけで発売された。

12
NORDLAND II

2003年。「ノルドランド」は2作で一つの物語を形成するという。従ってこのアルバムのオープニング曲「ファンファーレ」は「ノルドランド」の途中の曲になるが、2枚目のイントロの役割も果たしている。これまでのアルバムで最も長い3分半のイントロになり、オーケストラ風シンセサイザーで演奏される。「シー・ウルフ」は珍しくキーボードが重厚だ。「ノルドランド1」よりも音の厚みが増している。最後の「ザ・ホイール・オブ・サン」は12分半あり、マノウォーのような大仰さだ。クオーソンは2004年に死去。