1995年。邦題「エイリオン・時空の探求者」。ヘビーメタルのロック・オペラ、コンセプト・アルバムは、クイーンズライチの「オペレーション・マインドクライム」が最高傑作とされ、サヴァタージの「ストリーツ・ア・ロック・オペラ」がこれに匹敵する名盤という評価を得ていた。このアルバムは、ヨーロッパにおけるヘビーメタル・オペラのブームを引き起こした画期的作品として認識されている。アルイエン・アンソニー・ルカッセンはオランダのハードロックバンド、ヴェンジェンスのギターで、このアルバムに参加しているアーティストはカヤック、フィンチ、ゴールデン・イヤリングなどオランダのバンドからが多い。キングダム・カムのレニー・ウルフも参加している。歴史を変えるべく、未来世界から過去の世界を操作しようとする、というのが基本的な設定で、その過去の世界というのはアーサー王物語の時代である。主人公のエイリオンはその時代の吟遊詩人で、物語にはアーサー王や魔術師マーリンが登場する。したがって、サウンドは時代の雰囲気に合うようにオーケストレーションが使用され、ホーンの音はクラシック的だ。アメリカのバンドの場合、こうした作品の舞台設定は現代社会に置かれることが多いが、このアルバムの場合、中世に設定するというあたりにヨーロッパの独自性が表れている。
1996年。邦題「エイリオン・幻の詩」。コンセプト盤ではなく通常スタイルのアルバム。音の傾向は前作とあまり変わらないが、レコーディングに参加したアーティストは少なく、ヘビーメタル側の有名アーティストは参加していない。
1998年。2枚組。邦題「エイリオン・光の宮殿」。コンセプト盤形式に戻った。古代ローマ人、古代エジプト人、中世騎士、60年代のヒッピー、未来人等の8人の登場人物がどのような行動を取るかを描いている。各人物はステレオタイプ化された人格を背負っており、その人物特有の考え方通りに行動する。この物語のメッセージは、人間は自分の理解の範囲内でしか考え、行動することはできないということだ。デビュー盤では女性ボーカルが2人参加して効果的なバック・ボーカルをやっていたが、今回はウィズイン・テンプテーションとギャザリングのボーカルが参加し、メイン・ボーカルもとっている。カヤックのボーカルは3作連続参加。フォーカスのフルート奏者とロビー・ヴァレンタインは初参加。
2000年。邦題「エイリオン・宇宙の漂流者パート1」。2枚組とはせず、1枚ずつ個別にリリースしている。デビュー盤の続編と言ってよいが、サウンドはやや陰鬱でメロディーも抑揚を抑えた作りだ。少なくともボーカルはゴシック的雰囲気が漂う。ラナ・レーンのラナ・レーン、エリック・ノーランダー参加。アルバムタイトルとなっているドリーム・シーケンサーとは、催眠によって自分の過去の存在を知ることができる機械。このアルバムでは、主人公が過去の自分を次々と知っていくところまでを展開している。世界戦争によって全ての生物が絶滅し、火星には地球からの多数の移住者がいたが、その移住者も減って主人公が最後の1人となっている。彼はドリーム・シーケンサーによって、月面着陸の時代、オランダ黄金時代、アルマダ海戦の時代、マヤ文明の時代を見ることになるが、オランダ黄金時代が入っているところがアルイエン・アンソニー・ルカッセンらしいところだ。この過程で吟遊詩人の時代も見るが、ここでエイリオンが登場し、主人公がデビュー盤でのエイリオンだったことが分かるようになっている。主人公は、自分が最初の人間であったことを知るところで物語が終わる。
2000年。邦題「エイリオン・宇宙の漂流者パート2」。ヘビーメタル側の有名アーティストが多数している。しかし、豪華ゲストに見えるのはヘビーメタルの側から見ているからであって、個人の演奏技量を前面に押し出すバンドでない限り、音楽の質においては本質的ではない。全体的な出来は2枚組の「光の宮殿」に劣る。演奏にもヘビーメタルのアーティストを使っているため、曲調も硬質なサウンドだが、それが逆に流れを読みにくくしている。火星に住む最後の地球人である主人公が、前作で登場した「ドリーム・シーケンサー」を用いて、ビッグバンが起こる前の世界に戻そうとするが、やがて形成される世界では、太陽系ができ、地球ができ、以前と同じような宇宙の歴史が再び作られ始める。主人公はドリーム・シーケンサーでさらに過去に戻ろうとするが、その途中で主人公は死亡する。このアルバムの最後の曲は2枚連作の最後の曲ということになるが、ここでこの2枚の主題らしき言葉「永遠はあなたが出てくる。哲学的に言えば「永遠は実存に先立つ」、宗教的に言えば「人間は神を超えられない」ということだ。最後の曲の歌詞を書いたのはアルイエン・アンソニー・ルカッセンとエレジーのイアン・パリーで、先の主題を述べた後、「自分の未来を切り開くのは自分自身だ」というメッセージも同時に語らしめている。
2002年。タイトルにも「メタル」を入れてハードな音になった。2枚組だが2枚目はおまけのようなもので、ホークウィンド、デビッド・ボウイ、ドノバン、レッド・ツェッペリンのカバーを含む企画盤の体裁。必要なところで最適な人材を起用する才能は素晴らしい。スペーシーな雰囲気を表現するバンドとしては、ボストン、ホークウィンドに比肩しうる。デビュー盤をヘビーメタル寄りにしたサウンド。
2004年。2枚組。交通事故で昏睡となった私が、それまでの自分の人生を思い出し、そのときの心理を描く。私をドリーム・シアターのジェイムズ・ラブリエが担当し、全編にわたって歌う。私の妻と友人はそのまま妻、友人として曲に登場し、友人はアルイエン・アンソニー・ルカッセンが歌う。私の心の中にある「理性」「愛」「恐怖」「誇り」「情熱」「苦悩」「怒り」を私の一側面として7人のゲストアーティストが歌う。「父」は記憶の中の父として歌われている。したがってボーカルが11人いても物語上の人物は父を含めても4人だ。空想的な物語から離れ、現実的な状況を設定した初めてのアルバム。主人公は全く移動せず、内面や心理の変化だけで物語が進むのはラファイエット夫人の「クレーヴの奥方」を思わせる。「愛」と「情熱」を女性に歌わせているのは固定化したイメージのせいだろう。昏睡状態に陥っている私、とは現代人の暗喩であり、抑圧から解放されることで人間は人間らしい自由を取り戻すというのが主題だ。妻と友人の存在が私を快復させるという点は、友愛の重要さもメッセージに含んでいるとみられる。オルガンやフルート、ストリングスを多用し、古風なサウンドとなっている。ギター、ベース、キーボードはアルイエン・アンソニー・ルカッセンが演奏。「デイ9・プレイグラウンド」はグリーグの「朝」を使用。「デイ16・ルーザー」のオルガンソロはユーライア・ヒープのケン・ヘンズレー。
2008年。2枚組。1枚目は50分、2枚目は52分。ボーカルは15人も参加者がいるが、ギター、ベース、ドラム、キーボードはほとんどがアルイエン・ルカッセンの演奏。15曲のうち、5、6部構成の曲が4曲ある。ボーカルのうち10人は役割が与えられており、物語に沿ってボーカルが次々に替わっていく。今回は他のアルバムと異なり、アルイエン・ルカッセンが大部分の演奏を担当しているため、演奏が単調だ。プロジェクトとしての「エイリオン」は、ヨーロッパ地域のヘビーメタルに大きな反響を起こし、多数参加によるヘビーメタル・オペラが次々に作られるきっかけとなった。しかし、最初のアルバムから10年以上経つと目新しさも失われ、他人から指示されて演奏するアーティストも少なくなる。アルバム制作の実態としてはホワイトスネイクやオジー・オズボーン、イングヴェイ・マルムスティーンのようなワンマン・バンドと変わらない。参加者に作曲の権限まで与えれば単調にはならなかっただろうが、過去に成功したという自信が邪魔をしたと思われる。ブラインド・ガーディアンのハンジー・キアシュ、マグナムのボブ・カトレイ、ペイン・オブ・サルヴェイションのダニエル・ギルデンロウ、マスタープランのヨルン・ランデ、キングス・Xのタイ・テイバーらが参加しているが、ゴットハードのスティーヴ・リーは珍しい。ただ、ヘビーメタル・オペラの中でスティーヴ・リーの歌唱力を活かす曲を作るのは簡単ではないだろう。人間が科学技術によって自然を制御することの悲劇をテーマとし、物語の設定は空想的だが教訓は現代的だ。
2013年。アルイエン・アンソニー・ルカッセンのアルバムとしては明確なメッセージ性を持たない珍しいアルバム。天才だが精神疾患のある少年が、周囲の様々な欲望が絡み合うことによって悲劇の人生となってしまう過程を描く。少年の父親が悪いようにも受け取れる物語だが、その当時には誰にも分からない複雑な力の作用によって結果的に悲しい結果になっていることが示される。父、母、息子、精神科医が当事者として描かれ、先生が客観的立場で傍観している。聞き手は先生の視点で物語のなりゆきを見ることになる。アルバムタイトルは、科学者である父親の研究テーマ。20分を超える曲が4曲収録されており、それぞれ10曲程度に分割され、計42曲となっている。2枚組の1枚目に前半の2幕、2枚目に後半の2幕が置かれ、1枚目の最後が母の高揚した高音で終わるのもよくできている。プログレッシブロックの著名アーティストが多数参加し、リック・ウェイクマン、キース・エマーソン、ジョン・ウェットン、スティーヴ・ハケットは話題性優先で選んだと疑うほどだ。ジョン・ウェットンは精神科医役でボーカルをとる。キース・エマーソンは「プログレッシブ・ウェーブ」で70年代前半のころのムーグの音を出している。リック・ウェイクマン、スティーヴ・ハケットは通常のソロ。