1992年。邦題「テネシー(遠い記憶)」。アレステッド・ディヴェロップメントは男性4人、女性2人のヒップホップ・グループ。女性はスタイリスト兼ボーカルと、ダンサー兼ボーカル。DJのスピーチがほとんどの曲と詞を書く。アルバムタイトルは、日本盤解説によると、契約にかかった期間だという。このグループはヒップホップの歴史では重要で、コモンとともにコンシャス・ヒップホップの先駆けとされている。すなわち詩の内容が黒人問題(人種差別、地位向上)やアフリカ系アメリカ人の美意識についてであり、それまでの過剰な自意識や暴力煽動といった、アフリカ系インテリ層や白人が忌避する内容からは距離を置いている。そうした層から評価を受け、アメリカのヒップホップ・ファン、ソウルファンから広く支持された。ヒップホップのアーティストとして初めてグラミー賞の最優秀新人賞を受賞している。「テネシー」「ピープル・エブリデイ」は代表曲。「革命の雨が降る」「現実の前夜」収録。
1993年。アコースティック楽器によるライブ盤。18曲のうち前半の11曲はボーカル入り、後半の7曲はインスト。ボーカル専任として女性が加入し7人編成となっている。
1994年。邦題「ズィンガラマドゥーニ~踊る大地」。前作の啓蒙的な歌詞のほか、アフリカ系であることの自尊心、祖先の故郷であるアフリカに対する郷愁が歌われる。「ザ・ドラム」はインストで、アフリカの打楽器演奏。「アフリカズ・インサイド・ミー」「ユナイテッド・マインズ」収録。このアルバムでいったん解散した。
2000年。中心人物のスピーチを含む男性3人、女性1人で再結成。7曲で30分のEP盤。4人になってもサウンドの傾向は変わらないが、キーボードの音が現代的だ。
2001年。「テネシー(遠い記憶)」や「ズィンカラマドゥーニ~踊る大地」ほど社会的な歌詞ではなく、身の回りのできごとやラブソングもある。バックの演奏はバンド演奏に近い。20曲で79分。「アレステッド・ディヴェロップメント」収録。
2001年。ベスト盤。
2004年。ギター、ベースが加入し、女性コーラスも2人入り、9人編成となった。楽器奏者がメンバーになったことでサウンドがさらに多彩になり、バックの演奏は一般的なヒップホップのグループよりはるかにバンドに近い。ボーカルをとれるメンバーも多いので、ラップよりメロディーのつくボーカルが目立つ。ストリングスやホーンセクションも使う。詞は前作に続き身近な事象を歌う。ボーナストラックの「テネシー」は札幌での2004年のライブ。「ピープル・エヴリデイ」は迫力があるライブ。
2006年。ブラック・アイド・ピーズやカニエ・ウェストに影響を受けたようなサウンドがある。これまでのアルバムで最もポップで明るい。「ミラクルズ」や「サンシャイン」は女性ボーカルが複数いなければできない曲だ。アルバム全体が1970年代の雰囲気だ。「ダウン&ダーティ」は楽しい。12曲で43分。
2009年。女性2人を含む8人編成。リズムはプログラミングが多いが、キーボードやギター、ベースはかなりの部分で実際の楽器を演奏している。女性2人は常にメロディーを歌う。「ザ・ワールド・イズ・チェンジング~世界は変化している」「ザ・ワールド・イズ・ア・フレンドリー・プレイス」など、協調、友好の精神を広める歌詞が「アマング・ザ・トゥリーズ」以降の基本になっている。曲調が前向きで、男性ソロ・ヒップホップ・アーティストにありがちな自己主張の強さは皆無だ。