アークティック・モンキーズはイギリスのロックンロールバンド。4人編成。90年代のグランジ、オルタナティブロックはもちろん、ブリットポップ全盛期も過ぎた時期にデビューしているが、それらを含んだロックを聞いて育った世代を代表するバンドと認識されている。エレクトロニクスやサウンドとしてのノイズなど、2000年代風の装飾はなく、60年近く続くロックンロールの自己再生産とも言える。
2006年。シングル盤。ボーカル兼ギター、ギター、ベース、ドラムの4人編成。アップテンポで切れのいいギターで、勢いがある。デビュー曲としてのインパクトは十分。アルバム未収録曲2曲収録。「ビガー・ボーイズ・アンド・ストールン・スイートハーツ」はストロークスのようなサウンド。3曲目はインスト曲。
2006年。シングル盤。3曲で7分弱なので、アナログ盤シングルをそのままCDにしていると思われる。
2006年。とても若い風貌の4人組。ストロークスをハードにしたサウンドで、ハードコアやラウドロックなどに踏み込まないところでとどまる。音を詰め込むというような雰囲気ではなく、4人ですべての音を再現できるような演奏になっている。キーボードは使われない。13曲で41分。
2006年。シングル盤。5曲入り19分。
2006年。シングル盤。「プット・ユア・デュークス・アップ・ジョン」はリトル・フレイムス、「ベイビー・アイム・ユアーズ」はバーバラ・ルイスのカバー。
2007年。シングル盤。4曲入り。どの曲もロックン・ロールの勢いやダイナミックスさをよく出せている。
2007年。オープニング曲は豪快なロックン・ロール。2曲目はサビでキーボードを使い、聞きどころが続く。覚えやすいギターのメロディーが次々出てくるので、それぞれが逆に埋没するくらいだ。サウンドにもう少し幅があってもいいような気がする。
2007年。シングル盤。アルバム未収録曲3曲収録。
2007年。シングル盤。タイトル曲はキーボードが使われる曲。「ザ・デス・ランプス」は3分強のインスト曲。「ネトルズ」は2分弱。
2009年。サウンドが若干厚くなり、キーボードも使われる。派手ではないが暗さやひねくれた感覚もなく、淡々と演奏しているような印象だ。若い割には大人びた落ち着きがある一方、メロディーには以前よりも多彩さが出てきている。ベースが主導する曲もあり、これから音楽の幅がどんどん広がっていくことを期待させる。ボーカルにもう少し表現力が欲しい。若いゆえに大目に見てもらえる時期はこの辺が最後かもしれない。10曲で40分弱。
2011年。これまで展開されてきたギター中心のロックを、アークティック・モンキーズがいくつか試してみたような曲がある。解説によるとスタジオライブのような録音なので、聞こえてくるサウンドがほぼバンドの実力を示していると言える。演奏に余裕が出てきた。ドゥーワップのようなコーラスやバッドフィンガーのようなポップさがあり、一方で90年代以降のシューゲイザー風背景音も取り入れる。サウンド面ではもう少し大胆でも否定はされないだろう。
2013年。ボーカルの音域の狭さはこのバンドの個性であり難点でもあったが、ベースとドラムがつける高い音域のコーラスによって難点を減らし、個性の部分を押し出している。「ナンバー・ワン・パーティー・アンセム」「マッド・サウンズ」はキーボードとギターが曲を主導し、少しずつサウンドの幅を広げている。「アラベラ」はブラック・サバスの「ウォー・ピッグス」を参照したサウンド。「ナンバー・ワン・パーティー・アンセム」はジョン・レノン風の曲。「ワン・フォー・ザ・ロード」「ニー・ソックス」はクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのジョシュ・オムが参加している。「AM」とはアークティック・モンキーズの頭文字であり、AMラジオで一般的な中波を表す。ジャケットの波長は中波を表す。
2018年。曲調、サウンドを大きく転換し、キーボード、ストリングスを多用したヨーロッパ風ポピュラー音楽に近くなっている。フランスを中心とするラテン文化圏の室内音楽を思わせる。これまでのアルバムからの音楽的継続性はギター、ベース、ドラムがあるバンド編成だけで、ギターを中心とするロックンロールのバンドであったことは断ち切られている。全曲をボーカル兼ギターのアレックス・ターナーが作曲しており、アークティック・モンキーズがアレックス・ターナーの個人バンドであることを強く確認させる。このサウンドを今後も継続する可能性は低いだろうが、このアルバムを出したことで、何をやってもよいという自由さを獲得できたことは大きい。「ワン・ポイント・パースペクティヴ」「アメリカン・スポーツ」「ゴールデン・トランクス」「シー・ルックス・ライク・ファン」はギター中心と言えなくもない。
2022年。前作と同様にストリングスとピアノ、キーボードを多用した室内楽風ポップスを継続。「スカルプチャーズ・オブ・エニシング・ゴーズ」のようにメロディーに不穏さや緊張が漂う曲もある。この曲調が多数の若年層に広く受け入れられるわけではないが、欧米では20世紀半ばの、クラシックとビッグバンドジャズの間にあるポップス、クラシックではないオーケストラ音楽はイージーリスニングとしてジャンルが確立している。アレックス・ターナーはイージーリスニング周辺の音楽に影響を受け、映画や文学にも関心を示してロックンロールとは別の方向性を見いだしたと言える。多くのアーティストがデビュー時に若さを前面に出したアルバムを出し、枚数を重ねるごとに内面の成長の過程を押し出して評価を高めていくのと同様に、アークティック・モンキーズも衝動性から理性、抑制に向かっている。それを曲調の継続性の中で出そうとせず、曲調そのものを変えた。「ボディー・ペイント」から「ビッグ・アイデアズ」までは後半にエレキギターが挿入されるが、全体としてギターが主導する曲は少ない。
2008年。アークティック・モンキーズのボーカル兼ギターが結成した2人組のグループ。全曲でストリングス、キーボード等が使われ、12曲のうち10曲はストリングスを使う。アークティック・モンキーズでもできないことはないだろうが、別のバンドでやった方がアーティスト側にも聞き手にも都合がいいだろう。アークティック・モンキーズのボーカルがそのままこのグループでボーカルをとっているので、バックの演奏からストリングスを取り除けばアークティック・モンキーズのサウンドに近くなる。声や歌い方の個性は大きい。ストリングスはクラシック調というよりは映画音楽風で、ポール・モーリアやカラベリ、マントヴァーニが活躍した50、60年代の雰囲気がある。メロディーの抑揚も大きく取れるので、曲が印象に残りやすい。