ARCHITECTS

アーキテクツはイギリスのメタルコアのバンド。5人編成。デビュー時はメロディーを抑えた典型的メタルコア、「ホロウ・クラウン」からメロディーを重視するようになり、プログラミングやシンセサイザーも併用するようになった。「オール・アワ・ゴッズ・ハヴ・アバンダンド・アス」以降はドラムが主導権を取り、メタルコアから離れて現代的なロックになりつつある。メインの作詞者もボーカルからギター、ドラムに移り、私を中心とするミクロの世界から、我々を中心とするマクロの世界に変化している。

1
NIGHTMARES

2006年。1990年代からあるデスメタルと2000年代からのメタルコアを合わせ、後発バンドによくある凝った演奏をする。ボーカルやギターソロには時折メロディアスな部分がある。アメリカでは既に存在する音楽性を、イギリスのバンドが追いかけたというようなアルバム。

2
RUIN

2007年。ボーカル、ベースが交代。前作と同じ路線。「アイ・キャント・シー・ザ・ライト」では絶叫型のボーカル以外に2声のコーラスがある。

3
HOLLOW CROWN

2009年。メタルコアのハードさを残しながら、メロディアスなヘビーメタルに近くなっている。「フォロー・ザ・ウォーター」「デッド・マーチ」ではプログラミングも使う。キーボードとプログラミングを使うアルバムタイトル曲が、このバンドの可能性の大きさを示している。バンドだけで音を完結しなくてもよいという柔軟性は、2000年代後半にエレクトロニクスを取り入れるバンドが相次いで出てきたことも影響しているだろう。歌詞はボーカルの精神状態を表しており、自分を理解してくれる人がほしいという心の叫びが聞き取れる。このアルバムで日本デビュー。

4
THE HERE AND NOW

2011年。メロディアスなボーカルが大幅に増え、絶叫型のボーカルとともに2人いるようなバンドサウンドだ。前作のように若干のプログラミングも使う。メロディアスな部分が増えると、ヘビーメタルを超えて一般のロックとして、様々な方向に進むことが可能になる。プログラミングとキーボードはギターとドラムの兄弟が担っているので、この兄弟と他のメンバーがどのようにバランスを取りながら活動するのかが、この後のバンドの成否に大きく関わってくる。「ステイ・ヤング・フォーエバー」は従来のメタルコア。日本盤ボーナストラックの2曲はザ・プロディジーのようなリミックスの曲。

5
DAYBREAKER

2012年。オープニング曲の「ザ・ビター・エンド」で前作からサウンドの幅をさらに広げたと思わせる。キーボードが多くなり、ギター主導のメロディーを補強、補完する。通常のボーカルでメロディアスに歌う部分が減り、メロディーを絶叫型のボーカルで歌うことが多くなった。「ザ・ビター・エンド」「ビハインド・ザ・スローン」「アンビリーヴァー」は高い音のピアノやストリングスを模したシンセサイザーが曲の中心を占める。他の曲でも使われ、アルバム全体の雰囲気を決定している。ハードな曲は前作よりも「ホロウ・クラウン」に近い。「ジーズ・カラーズ・ドント・ラン」「フェザー・オブ・リード」は強欲資本主義、「トゥルース、ビー・トールド」はポスト真実を扱っており、歌詞の社会性が高くなった。その意味では、このアルバムのハイライトは「アンビリーヴァー」だろう。

6
LOST FOREVER//LOST TOGETHER

2014年。キーボードの量を減らし、メロディアスなボーカルも少なくなっている。「ホロウ・クラウン」よりもハードで攻撃的になっているのではないか。「コロニー・コラプス」は福島第一原発に関する日本政府の虚偽説明、「ザ・デヴィル・イズ・ニアー」は反捕鯨、「デッド・マン・トーキング」は内部告発者への迫害、「ブロークン・クロス」は原理主義を扱う。主にギターとボーカルが作詞しているとみられる。

7
ALL OUR GODS HAVE ABANDONED US

2016年。ギターの1人が交代。オープニング曲の「ニヒリスト」は前半がパンテラのような曲調になり、後半がストラッピング・ヤング・ラッド、ソイルワーク、イン・フレイムス風になる。メロディック・デスメタルに強いフレドリック・ノルドストロームをプロデューサーにした影響だろう。ほとんどの曲でシンセサイザーが背景音のように響き、曲の雰囲気を形成している。プログラミングも若干入る。アーキテクツとしては新しい音だが、ヘビーメタル全体ではそれほど大きな革新性はない。最後の曲の「メメント・モリ」はプログラミングとシンセサイザーを大きく取り入れ、8分を超える。この曲の作り方をうまく発展させられれば、別の展開が見える。このアルバムから日本盤が出なくなった。

8
HOLY HELL

2018年。プログラミングとシンセサイザーの量を増やし、ギターは音の厚みとリズムを担うことが多い。「デイブレイカー」以来、通常ボーカルが復活している。前作の「メメント・モリ」の曲調をうまく生かした。ハードさの追求をいったん中断したのかもしれないが、プログラミングを多用してもハードさは維持できる。シンセサイザーとプログラミングを別の要素と認識して、プログラミングをキーボードの代用としなかったのもよかった。シンセサイザーはストリングスに近い音が中心。

9
FOR THOSE THAT WISH TO EXIST

2021年。メロディーの主導がシンセサイザーとプログラミングに移り、前作のサウンドをさらに押し進めた。メンバー5人のうち3人がキーボードを兼任する。ストリングスは5人、金管楽器は10人、コーラスは10人が参加し、リズムはドラムとプログラミングを併用する。ボーカルは力強く歌うが絶叫型ボーカルは少なく、メロディーを歌う。バンドの中心人物はドラムのドン・サールに移り、歌詞とプログラミングとプロデュースを担う。「オール・アワ・ゴッズ・ハヴ・アバンダンド・アス」以降の、宗教を絡めた現代社会的な問題意識は、ドン・サールの考え方を反映している。資本主義や温暖化の問題は、社会科学的、生物学的な持続可能性を問うている。メタルコアから離れ、主流のロックにも近づいているが、「オール・アワ・ゴッズ・ハヴ・アバンダンド・アス」以降のアルバムこそ日本盤が出るべきだった。