2004年。メンバーとして表記されている人が11人おり、複数の楽器を演奏する者が6人、単一の楽器を演奏する者が5人いる。ブックレットには前者の6人によるサインがあるので、この6人が事実上のメンバーだと言える。演奏は主にギター、キーボード、鉄琴、ストリングスが使われ、ボーカルは声を張り上げない。ボーカルは男性と女性の2人だが多くは男性が歌う。アーケイド・ファイアに限らず、アルバムのタイトルが「葬式」となっている場合、何に対する葬式なのか、何を葬り去ろうとしているのかをアルバム全体から読み取る必要がある。メンバーは親族の死が相次いだからと答えているようだが、経緯としてそれが事実であっても、アルバムタイトルに込めた含意は別のところにあると考えて聞くべきだろう。しかし、歌詞からは明確に読み取れず、むしろそれぞれの曲はさまざまに解釈できる。「ネイバーフッド音質を意図的に抑えて明瞭な響きにしていないのは、どんな人間でも永遠に未完成で未熟であることを示しているかのようだ。男性と女性がいて、バンドとストリングスが互いに補完するサウンドは、社会が素性の異なる者同士の互助で成り立っていることを示す。やや憂いのあるメロディーを徐々に盛り上げる曲が多い。コーラスのないポリフォニック・スプリーというイメージだ。「ウェイク・アップ」収録。
2007年。7人編成。男性5人、女性2人。ストリングス、ホーンセクション、合唱は曲に応じて何人もの音楽家が参加している。ストリングスは基本的な楽器として多くの曲で使われる。ドラムはロック特有の強い叩き方ではなく、他の楽器と同じような控えめな音だ。前作よりも音質はよくなった。アルバムのテーマは、テレビやネット映像が発達した現代における思想形成のあり方、人の思考様式がテレビやネットからどれほど影響を受けているか、という現代的な問題だ。「ネオン」とは現代のメディア、「バイブル」とは思考の様式を形づくるものの象徴だ。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやブルース・スプリングスティーンなど、アメリカの過去のアーティストを思わせる曲が複数ある。それらのアーティストは、サウンド面の革新性よりも曲なりアルバムなりが訴えかける社会的メッセージが評価されており、アーケイド・ファイアがこれらのアーティストを理解し参照しているとの推測ができる。その上でアナログ楽器を多用した非定型の曲が並べば、文化の社会的意義や価値を理解した新しい時代のアーティストということになる。音を重ねてメロディーを盛り上げていく曲が多い。「インターヴェンション」は重厚なパイプオルガンで始まり、オーケストラも加わる壮大なポップス。
2010年。これまでで最も軽快に曲が始まる。ともにストリングスが効果的に響く。郊外というタイトルは、70年代以降に先進国で生まれ育った都市部の中間層の原風景を意味しているとみられる。「レディ・トゥ・スタート」「エンプティ・ルーム」「ウェイステッド・アワーズ(ア・ライフ・ザット・ウィー・キャン・リヴ)」等は青年期の心理をうまく描き、「ロココ」では社会の上位層ゆえのやや上から目線を、そうとは気付かれないようにうまく表現している。アルバム全体に感じられるのは、郊外で生まれ育って大人になった自分が、取り戻せない過去にもどかしさと不安と若干の郷愁を感じ、それでも新しい人生を歩む、という「ノルウェイの森」に似た雰囲気だ。アルバムの前半は明るめだが、明るさと若干の諦観が同居したようなサウンドで、これがカナダ出身であることと無関係ではないように思われる。後半は「ネオン・バイブル」に近い雰囲気も出てくる。女性ボーカルは男性よりも爽快感が大きいので、女性ボーカルを増やせばさらに広い支持が得られるかもしれない。「エンプティ・ルーム」は朝の爽快さを思わせるサウンド。16曲で64分。
2011年。新曲を2曲追加し、アルバムに関連する約30分のDVD映像を付属させた再発盤。
2013年。男性5人、女性1人の6人編成。2枚組。1枚目はややロックの快活さがあり、2枚目は1枚目よりも聞かせようとする曲が多い。アナログ時代のLPのB面にバラードや長い曲が入ることが多かったのと同じだ。1枚目はドラムとギターが目立ち、メロディーも覚えやすい。アルバムタイトル曲はネット時代の人のつながり方を問い、その媒介物である「リフレクター(反射物)」を批判的に捉えている。2枚目は「オーフル・サウンド(オー・ユーリディス)」「アフターライフ」などが全体の印象を特徴づける。「オーフル・サウンド(オー・ユーリディス)」のユーリディスは、エウリディーチェという呼び方で知られているギリシャ神話の登場人物で、オルフェオの妻。したがって「オーフル・サウンド(オー・ユーリディス)」と「イッツ・ネヴァー・オーヴァー(ヘイ・オルフェウス)」が一対をなす。オルフェオとエウリディーチェは、歌の力によって男(オルフェオ)が地獄から女(エウリディーチェ)を救い出すという物語によって音楽の力を象徴するテーマとなり、グルックのオペラ改革やオッフェンバックの喜歌劇など、多数の音楽関係者に採用されてきた題材。オルフェオとアーケイド・ファイアを重ねていることは想像できる。「フラッシュバルブ・アイズ」は「ヨシュア・トゥリー」「魂の叫び」のころのU2を思い出させる。
2017年。「ネオン・バイブル」から「リフレクター」までに共通するアーケイド・ファイアのメッセージをこのアルバムでも繰り返している。都市化と文明化が進んだ状況において、神を信じるとか、人を愛するとか、人間の根源的な行為や精神的営みのあり方を問う。文明化によって欲しいものが全て、すぐに手に入ることは人を幸せにしないと歌い、人間同士の精神的和合、すなわち愛は文明化が進んでも思い通りにはならないと歌う。アーケイド・ファイアが高く評価される理由は、おそらく主要な作詞作曲者であるウィン・バトラーの思索が反映された歌詞にあり、サウンドはその次だ。結論や主張を直接に表現せず、物語や情景を通して暗にメッセージを込めるのも、過去の高名なアーティストに連なる。アーケイド・ファイアにとってサウンドは、録音するその時々で関心の対象になったものを取り入れているに過ぎないように見える。アルバムを出すごとにサウンドはポップになり、持続音から減衰音中心になりつつある。ボブ・ディランやブルース・スプリングスティーン、初期のデヴィッド・ボウイなどと同じように、次作以降もどんなメッセージを込めているかを中心に聞かれることになるだろう。