1992年。邦題「アンビエント・ワークス」。エイフェックス・ツインはイギリス出身のDJ、電子音楽作曲家。本名はリチャード・D・ジェイムス。大きなジャンルとしてはテクノ、細かいジャンルではアンビエント・テクノあるいはエレクトロニカに分類される。
1993年。2枚組で2時間半以上ある。全23曲を3曲から5曲ずつに分け、各グループに「ライト・グリーン」「ダーク・グリーン」「ライト・ブラウン」「オレンジ」「レッド」「ダーク・ブラウン」の表記がある。エイフェックス・ツインのサウンドを表す言葉としてよく使われる「アンビエント」は、日本人の場合安らぎや癒やしのイメージになるのだろうが、キリスト教圏の欧米人は、宗教的厳かさから来る幸福感が大きく含まれると思われる。残響の深さや音のサウンドに現代音楽やミニマル・ミュージックの影響を感じ取るのは、教会で音楽を聞く機会が少ないゆえかもしれない。日本盤は1999年発売。
1995年。1991年から92年にかけて発売されたシングル盤やEPの曲を収録した企画盤。エイフェックス・ツインが有名になるきっかけとなった「ディジュリドゥー」と「アナログ・バブルバス」を収録しているのがポイント。
1995年。12曲全てに、1990年から95年までのいずれかの年の表記が付いているので、作曲年もしくは制作年だと思われる。普通の人には不快な音も多くサンプリングされ、加工されている。「カモン・ユー・スラッグス!」「スタート・アズ・ユー・ミーン・トゥ・ゴー・オン」などはハードで鋭利なリズム(ビート)の上に輪郭のあいまいなメロディーが乗る。メロディーだけなら心地よい曲が多いが、人間的温かみのないリズムが緊張感を生み出しており、それが時代性にもつながっている。「lcctヘドラル(エディット)」はオーケストラのような音でゴシック・ロックのメロディーをつくる。オーケストラの部分はフィリップ・グラスが作曲しているという。
1996年。アルバムの基本リズム(ビート)をドラムン・ベースで統一している。「ピーク824545201」のリズムは凝りまくった複雑さ。この曲以外にもビートを詰め込んだような曲がいくつもあるが、そんな曲ばかりだと疲れてしまうので「フィンガービブ」「グーン・ガンパス」のような緩い曲で緊張を解いている。「ガール・ボーイ・ソング」はシングルにもなった代表曲。「ローガン・ロック・ウィッチ」は教会オルガンの音を使って最後らしくまとめている。日本盤ボーナストラックの「ビートルズ」は有名グループのザ・ビートルズと関係なさそうなサウンド。
1996年。93年から96年に発売されたEP盤、シングル盤から選曲した企画盤。主に3枚のEP盤、シングル盤から選曲されており、ジャケットにも縮小版が使われている。リズムに当たる部分はサンプリングやエレクトロニクスで自在に加工した音だが、メロディーに当たる部分はサンプリング以外に伝統的な楽器も使われている。「lcctヘドラル」は短縮していない8分のバージョン。「オン」収録。日本独自発売。
1999年。シングル盤。タイトル曲のデモ・バージョンとエンドロール・バージョンというものが入っているが、元の曲とはかなり違う。
2001年。2枚組、30曲で約100分。6分から8分の、ドラムン・ベースより速いドリルン・ベース、1分から2分のピアノ曲やミドルテンポの曲が、順不同のような形で収録されている。これが緊張と弛緩のバランスをうまく取っている。シンセサイザーやコンピューターで作れる「享楽的でない、商業的でない音楽」を1枚ににまとめてみた、というようなアルバム。
2014年。リズムは多彩で、ハードな曲では手の込んだリズムの形をたたみかける。リズムに乗せるメロディーはとりあえずつけてあるようなものと、メロディーとリズムの両輪で進む曲がある。リズムがメーンかメロディーや曲調がメーンかはなんとなく分かるような音になっており、これは通常のロック、ポップスのあり方と変わらない。「CITRCLONT6A」と「CITRCLONT14」は1分の間奏曲を挟んでいるだけなので連続した曲と解釈するべきだろう。アルバムの前半はなじみのあるリズムが中心でテンポも120から130なのでハウスとして聞ける。後半は140から160に上がり、曲調もハードになってくる。最後の「aisatsana」はエイフェックス・ツインの妻の名前アナスターシャを逆から表記したタイトルとみられる。曲の全編をピアノ独奏と鳥のさえずりで占め、テンポも102に落とされているのは、エイフェックス・ツインがアナスターシャをどのように見ているのかを曲にしたと言える。エイフェックス・ツインが音楽よりも家族に意識が向かっていることを象徴する曲であり、アーティストとして広く知れ渡っているイメージとは逆に、紳士的だ。この曲をアルバムの最後に入れたことによってエイフェックス・ツインはメッセージを発している。10年以上もエイフェックス・ツインとしてアルバムを出さなかったことの理由は、家族愛による創作意欲の減退ではあっても、才能の枯渇ではないだろう。
2015年。EP盤。ピアノとドラムを中心とする前衛的な音楽。ピアノはプリペアド・ピアノも含まれるので、ジョン・ケージのような現代音楽をテクノでやってみたというようなサウンド。2012年に生誕100年で焦点が当たり、コンサートや特集が多く組まれたので、それに触発されたかもしれない。
2016年。EP盤。6曲収録。シンセサイザーのチーターMS800を用いた曲を、7曲収録している。曲目はほぼ記号と化している。制作の目的そのものが通常のアルバム制作とはかなり異なるため、EPの形で出したとみられる。楽器に焦点を当てることはこれまでもクラシックやロックで行われてきているので、それほど珍しくない。クラシックやロックの場合はアンサンブルを前提としていることが多いため、一つの機材で曲を構築できる電子音楽では多少の独自性を指摘することは可能だ。ただ、そこを考慮しても、エイフェックス・ツインが特別に才能を発揮しているとか、視点がユニークであるということを、このEPだけからアピールするのは難しい。