ANTHRAX

  • アメリカのスラッシュメタルバンド。メタリカ、メガデス、スレイヤーとともにスラッシュメタルの4大バンドとされる。
  • 80年代全盛時はジョーイ・ベラドナ(ボーカル)、ダン・スピッツ(ギター)、スコット・イアン(ギター)、フランク・ベロ(ベース)、チャーリー・ベナンテ(ドラム)。90年代後半から2000年代はボーカルがジョン・ブッシュ。
  • 他のスラッシュメタルバンドに比べ、大幅に音楽の幅が広く、パンクやヒップホップも取り入れている。

1
FISTFUL OF METAL

1984年。ギター2人の5人編成。ボーカルはニール・タービン、リード・ギターはダン・スピッツ、リズム・ギターはスコット・イアン。ダン・スピッツはデイブ・スピッツの兄弟。ベースはダン・リルカで、現在はブルータル・トゥルース。ドラムはチャーリー・ベナンテ。ボーカルは同時期に既にデビューしていたメタリカやスレイヤーよりもきちんと歌っており、ギターもソロは普通のヘビーメタル並みにメロディアスだ。あとから出てきたスラッシュ・メタルバンドと比べても質が違うことがはっきり分かる。「アイム・エイティーン」はアリス・クーパーのカバー。「デスライダー」「パニック」収録。

 
ARMED AND DANGEROUS

1985年。5曲入りシングル。CD化の際、「ソルジャーズ・オブ・メタル」に収録されていた2曲を追加しているのでCDは7曲収録。ボーカルがジョーイ・ベラドナ、ベースがフランク・ベロに交代。ボーカルは前任者よりもさらにうまく歌う。スラッシュ・メタルだけでなく、ヘビーメタル全体でもレベルの高いボーカルだ。タイトル曲はアルバム・バージョンとは違い、キーボードによるイントロ付きで約20秒長い。「ゴッド・セイブ・ザ・クイーン」はセックス・ピストルズのカバー。

2
SPREADING THE DISEASE

1985年。邦題「狂気のスラッシュ感染」。大手レコード会社に移籍。この年にはスラッシュ・メタルの4大バンドがすべてデビュー。ボーカルが専任だったのはこのバンドだけだった。当時はメタリカのジェイムズ・ヘットフィールドもメガデスのデイブ・ムステインもうまいボーカルだと思われていなかったので、アンスラックスはボーカルが優れたバンドというイメージがあった。他のバンドがことさら過激さや曲のアレンジに力を入れて聞き手を近寄りがたくしていたが、このバンドはメンバーの性格のおかげで親しみやすく、スラッシュ・メタルの一般化に多大な貢献をしたと思われる。「ガング・ホー」のエンディングはバロック時代のフランスの作曲家、ジャン・ジョセフ・ムーレの「ファンファーレ」を使用している。アメリカではテレビ番組のテーマ曲になっている。「A.I.R.」「マッドハウス」収録。全米113位。

3
AMONG THE LIVING

1987年。ややスラッシュ・メタルらしくなり、ジョーイ・ベラドナが歌い上げるような部分が控えめになっている。ギターもリズムを刻むことが目立つ。後半3曲が弱いか。「アイ・アム・ザ・ロウ」「コート・イン・ア・モッシュ」「インディアン」収録。全米62位。

 
I'M THE MAN

1987年。ミニ・アルバム。「アイム・ザ・マン」はスクラッチを大きく取り入れ、ヒップホップとヘビーメタルを合成したような音。この時期にヒップホップをとりいれたというのもすごいが、曲の途中で前年に出たメタリカの「メタル・マスター」をサンプリングしているのはもっとすごい。ボーカルはラップで歌う。ブラック・サバスの「血まみれの安息日」のカバー収録。エンディングは「スイート・リーフ」になっている。「アイム・ザ・マン」「コート・イン・ア・モッシュ」「アイ・アム・ザ・ロウ」のライブ収録。全米53位。アンスラックスのアルバムの中で唯一、アメリカで100万枚を超えている。

4
STATE OF EUPHORIA

1988年。メロディーが覚えやすくなった。こぢんまりした印象もある。ハードな曲がないわけではないが、勢いに欠ける。「ナウ・イッツ・ダーク」のサビは「アウト・オブ・サイト、アウト・オブ・マインド」と同じように聞こえる。「アンチソーシャル」はトラストのカバー。今でもライブで演奏される。全米30位。

 
PENIKUFESIN

1989年。邦題「N.F.E.」。6曲入りEP。「アンチソーシャル」のフランス語バージョン、セックス・ピストルズの「フリッギン・イン・ザ・リッギン」、キッスの「パラサイト」、トラストの「セクツ」、ベンチャーズの「パイプライン」のカバーを収録。

5
PERSISTENCE OF TIME

1990年。「アマング・ザ・リヴィング」のような作風。いくらか印象に残るメロディーがある。「ゴット・ザ・タイム」はジョー・ジャクソンのカバー。全米24位。

 
GOT THE TIME

1991年。シングル盤。邦題「メガ・アンスラックス!!」。「アイム・ザ・マン」の日本公演のライブ収録。「フー・プット・ジス・トゥゲザー」は伊藤政則の「ロウ・IQ、ハイ・エナジー」という声やレッド・ツェッペリンの「ロックン・ロール」等をサンプリングしている。

 
ATTACK OF THE KILLER B'S

1991年。新曲5曲、「アイム・ザ・マン」の再録音、ライブ2曲等を含む企画盤。「ブリング・ザ・ノイズ」はパブリック・エナミーのカバー。「プロテスト・アンド・サヴァイヴ」はディスチャージ、「パラサイト」はキッス、「パイプライン」はベンチャーズ、「セクツ」はトラストのカバー。「ブリング・ザ・ノイズ」は2000年代のラップ入りラウド・ロックに強い影響を与えた。ラウド・ロックファンにはアンスラックスの知名度が高く、この企画盤が最高傑作とされている。全米27位。

6
SOUND OF WHITE NOISE

1993年。ボーカルがアーマード・セイントのジョン・ブッシュに交代した。ボーカルが変わったことよりもサウンドが変わったことの方が重要で、典型的なスラッシュ・メタルと呼べる曲はほとんどない。オーソドックスなヘビーメタルが多く、曲がやや長い。メタリカの「メタリカ」が1991年に出たことを考えると、スラッシュ・メタルはグランジ・ロックと入れ替わるようにして消滅したジャンルといえる。ボーナスディスクは4曲収録。「ノイズゲート」はアンスラックスのオリジナル曲。「カウボーイ・ソング」はシンリジー、「サヨナラ・グッバイ」はチープ・トリック、「ルッキング・ダウン・ザ・バレル・オブ・ア・ガン」はビースティー・ボーイズのカバー。日本盤の再発盤は「ノイズゲート」を削除し、キッスの「ラヴ・ハー・オール・アイ・キャン」のカバーを収録。海外盤の再発盤はキッス、ビースティー・ボーイズの代わりにザ・スミスのカバーが収録されている。全米7位。

BLACK LODGE

1993年。シングル盤。8曲のうち5曲は「ブラック・ロッジ」のバージョン違い。

 
LIVE THE ISLAND YEARS

1994年。ライブ盤。ボーカルはジョーイ・ベラドナ。8曲目の「ブリング・ザ・ノイズ」まではアンスラックスとパブリック・エナミーが共演した1991年のライブ・ツアーを収録している。9曲目以降の5曲はスタジオライブ。「ブリング・ザ・ノイズ」はパブリック・エナミーが参加している。このツアーはロックの歴史においてはとても重要で、リンプビズキットやリンキン・パークが結成されるきっかけとなっており、ライブ盤になっているだけで有意義だ。

7
STOMP 442

1995年。ギターのダン・スピッツが脱退。ギターはパンテラのダイムバッグ・ダレルとベラドナのポール・クルックがゲスト参加。ドラムのチャーリー・ベナンテもギターを弾いている。全曲をチャーリー・ベナンテが作曲している。従来のヘビーメタル、スラッシュ・メタルに戻ったようなサウンド。パンテラを筆頭とする流行のサウンドを取り入れている部分もあるが、中途半端にやるよりは完全移行した方がいいのではないか。全米47位。

FUELED

1996年。シングル盤。

8
VOLUME 8:THE THREAT IS REAL!

1998年。パンテラのフィリップ・アンセルモとダイムバッグ・ダレルが参加。ヨーロッパ以外の地域では伝統的なヘビーメタルがラウド・ロックの中に吸収されているような感がある。このアルバムもそうした流れの中にある。1分以下の曲が2曲あるが、ハードコアを取り入れているというより、その時々の興味の向くサウンドをそのままやる軽いのりでやっている。サビに至るまでのメロディーやギターがいかにもラウド・ロックに影響を受けているという曲もある。全米118位。

INSIDE OUT

1998年。「ヴォリューム8・スレッド・イズ・リアル」からのシングル。「ザ・ベンズ」はレディオヘッドのカバー。

RETURN OF THE KILLER A'S

2000年。ベスト盤。

9
WE'VE COME FOR YOU ALL

2003年。ギターのポール・クルックが抜け、ロブ・カッジアーノが加入。前作よりさらにオーソドックスなロック。ヘビーメタルの要素もあるラウド・ロックというような音。メロディアスな部分でのコーラスが厚くなった。

 
THE GREATER OF TWO EVILS

2004年。「フィストフル・オブ・メタル」から「パーシスタンス・オブ・タイム」までの曲を現在のメンバーで再録音。

10
WARSHIP MUSIC

2011年。ボーカルがジョーイ・ベラドナに戻った。オープニング曲はイントロで、実質的に2曲目から始まる。実質的な最初の曲の「アース・オン・ヘル」はギターを細かく刻むスラッシュメタル。「ファイト・エム・ティル・ユー・キャント」は80年代に近い曲調。「アイム・アライヴ」「イン・ジ・エンド」「クロウル」は一般的なヘビーメタルの曲。ジョーイ・ベラドナが復帰したので音域が広く取れる。ミドルテンポのヘビーメタルでそうした特徴がよく発揮される。「ジューダス・プリースト」はヘビーメタル・バンドのジューダス・プリーストのこと。

11
FOR ALL KINGS

2016年。ギターの1人が交代。1分半のイントロからヘビーメタルに入っていく。実質的なオープニング曲である「ユー・ガッタ・ビリーヴ」は6分あり、間奏のテンポが変わる。この曲以降、一般的なヘビーメタルの曲が続き、専任のボーカルがいることを生かした抑揚の大きいメロディーが多くなる。ジョーイ・ベラドナが復帰したにもかかわらず、「狂気のスラッシュ感染」や「アマング・ザ・リヴィング」にあった音楽的冒険がなく、終始ヘビーメタル、スラッシュメタルで通しているのはもったいない。評価の高い「リング・ザ・ノイズ」や「アイム・ザ・マン」のような曲を2010年代にやる必要はないが、好奇心による音楽的な悪ふざけはあってもよかった。