1993年。ヴァイパーのボーカル、アンドレ・マトスがヴァイパー脱退後に結成したバンド。クラシックを明白な形で取り入れたハロウィン型ヘビーメタルでは、アングラよりもヴァイパー登場時の方が衝撃が大きく、このアングラは衝撃よりも安心の方が大きかった。ブラジル出身という意外性は既にヴァイパーのデビューの後ということで緩和されており、音楽的興味はアンドレ・マトスの趣味がどこまで、どういう風に反映されているかというところに移っていた。シューベルトの交響曲第7番「未完成」をモチーフにしたイントロのあと、今でも代表曲の「キャリー・オン」につながる。クラシック風のメロディーは頻繁に現れる。ケイト・ブッシュの「嵐が丘」を忠実にカバー。ガンマ・レイのカイ・ハンセン、ヘヴンズ・ゲイトのサシャ・ピート等参加。
1994年。シングル。日本盤はTシャツ付きだった。タイトル曲は間奏でヴィヴァルディのバイオリン協奏曲「四季」から「夏」の一部を借用。この曲と「エンジェルズ・クライ」「キャリー・オン」は3曲ともボーカルを再録音。オーケストラが厚くなり、ドラムの音、ギターの響きも格段に向上している。「嵐が丘」はシングル・バージョン。
1996年。このアルバムが登場したとき話題になったのは、民族的パーカッションの導入だった。その象徴的な曲として「キャロライナIV」がよく取り上げられた。同じブラジル出身のセパルトゥラが「ルーツ」を発表して、ブラジルの少数民族のパーカッションを大きく扱ったことを引き合いに出し、アンドレ・マトスのブラジル人らしさの表出が語られた。2作目で早くも典型的ハロウィン型ヘビーメタルから脱し、バンドの個性を確立しようとしたことが見える点にアルバムの意義がある。「クロッシング」「Z.I.T.O.」「ディープ・ブルー」収録。
1996年。新曲2曲を含むミニ・アルバム。ジューダス・プリーストの「ペインキラー」のカバー、アルバム収録曲の別バージョン3曲を収録。
1997年。初のライブ盤。キーボード奏者がゲスト参加している。「ナッシング・トゥ・セイ」と「キャリー・オン」のイントロもそれぞれ1曲として数えられているので、実質的には4曲収録となる。聞きどころは13分の「キャロライナIV」。
1998年。管弦楽がバックに聞こえるために、クラシックの影響を引きずっているように感じるが、もはやクラシック云々は些末なことになっている。オープニング曲から急-緩-急の構成を持った展開のある曲で、アンドレ・マトスの作曲技巧が初期の形式踏襲から独自の道を歩んでいることを示す。2曲目も同じように急-緩-急になっている。単純な構造から複雑な構造への傾倒は、ドリーム・シアターをはじめとするプログレッシブ・ヘビーメタルの影響を感じさせる。メンバーにキーボードがおらず、管弦楽を使いながら曲はヘビーメタルそのもの。
1998年。先行シングル。「メイク・ビリーヴ」のアコースティック・バージョンと「エンジェルズ・クライ」のデモ・バージョン収録。
1998年。3曲入りアコースティック・ライブ。
2001年。ボーカル、ベース、ドラムが脱退して新たに交代要員を入れた。スピードを初期に戻した。新ボーカルのエド・ファラスキは前任のアンドレ・マトスよりも癖がなく聞きやすい。プロダクションも向上。ヘビーメタル全体でも上位に入る質を保っている。ジャケットをこれまでと異なる青を基調にしたことは、リニューアルのイメージを持たせる点でうまい戦略だった。「ノヴァ・エラ」はよくできている。オーケストラの使用や合唱の多用は変わらず、デビュー盤を彷彿とさせる曲もある。
2002年。企画盤。3曲が新曲。アコースティック・バージョンが2曲、ジェネシスの「ママ」のカバー収録。
2003年。2枚組ライブ。
2004年。十字軍遠征をテーマとするコンセプト盤。十字軍遠征や15世紀の大航海、イベリア半島のレコンキスタ(国土回復運動)は南米諸国の国の成り立ちにかかわる重要なできごとで、ブラジル人のアイデンティティの追求という意味ではセパルトゥラの「ルーツ」と同じ方向を向いたアルバムだ。オープニング曲は合唱が厚い。十字軍遠征はローマからエルサレムへの遠征なので、バルカン半島の民族音楽とともに、ブラジルの民族音楽も混入される。「スプレッド・ユア・ファイア」「テンプル・オブ・ヘイト」「エンジェルズ・アンド・ディーモンズ」「ウィッシング・ウェル」収録。
2006年。仮にこのアルバムをANGRA以外のバンドが出していれば、それほど高い評価は得られない。日本のヘビーメタル・ファンは、アルバムにひとつのテーマらしきもの(日本のファンが好んで使う「コンセプト」)を見出すと、高尚な印象を持ってしまうことが多いが、そうしたアルバムが評価されるのは必然性を伴っている場合だけだ。テーマがあっても、それを公表するバンドとしないバンドがある。公表したバンドを無自覚に高く評価するのは知性の称賛であり、体制の保守につながる態度である。前作はブラジル出身のバンドが採り上げる意味を見出せたが、今回はわざわざANGRAがやらなくてもいいようなテーマだ。バンドを取り巻く環境から発したテーマではなく、メンバー個人の趣味によるテーマである。サウンドはヨーロッパ型ヘビーメタル。メロディーの流れは自然で、水準以上の質を保っている。中心人物が変わったり、社会性を持ったテーマがあったりというような、注目を集める要素がない最初のアルバム。ヘビーメタルとして驚きが少ないアルバムだったというのがイメージを悪くしている。ANGRAであるために高い質を期待されるとか、前作並の内容を期待されるなどの不利な条件が重なった。
2010年。ドラムが交代。シェークスピアの「テンペスト」をもとにしたアルバムだという。バンドというよりはメンバー個人の歴史趣味で決まったような題材だ。サウンドはこれまでと同じようにキーボードとストリングス、パーカッションを交えたフル編成の演奏だ。重厚なコーラスはなく、大仰さは抑えられているものの、同時にドラマチックさも減少している。「リース・オブ・ライフ」は唯一のボーカル単独作曲だが、メロディーはやや抑揚が小さい。「ウィークネス・オブ・ア・マン」はラテン音楽を感じさせないパーカッションが入る。
2013年。ライブ盤。ブラジルのサンパウロで録音されているので、2度目のサンパウロのライブ盤になる。ボーカルのエド・ファラスキが抜け、ラプソディー・オブ・ファイアのファビオ・リオーネがボーカルをとる。ファビオ・リオーネは高い音階でもそれほど難なく歌う。「スタンド・アウェイ」「嵐が丘」はナイトウィッシュのターヤ・トゥルネンがボーカルをとる。CD版とDVD版があり、CD版はベスト盤に近い選曲だ。ストリングス等はキーボードによって演奏されることが多いが、一部の曲で弦楽五重奏団が弾いている。ファビオ・リオーネを含む各メンバーの実力が安定しているので安心感を持って聞ける。ギターソロやドラムソロがないのも評価できる。
2014年。ボーカルがラプソディー・オブ・ファイアのファビオ・リオーネに交代。曲は多様性に富んでおり、20年を経たなりの咀嚼力がある。これが同一のタイプに偏っていれば評価は低くなるが、ヘビーメタルの範囲内で単調さを回避している。オープニング曲の間奏はドリーム・シアターのような展開だ。「ファイナル・ライト」「アッパー・レヴェル」のパーカッションがブラジルらしさを感じさせるが、そこは聞き手の固定観念が含まれるだろう。「ストーム・オブ・エモーションズ」「ヴァイオレット・スカイ」のラファエル・ビッテンコート、「クラッシング・ルーム」のドロ・ペッシュのボーカルはうまいとは言えない。タイトル曲はエピカのシモーネ・シモンズがボーカルをとる。
2018年。近未来を舞台とするコンセプト盤。人工知能対人間の思考というありふれた題材で、コンセプト盤をうたっていることがむしろ凡庸さを示してしまっている。ファビオ・リオーネがボーカルとなり、弦楽や合唱が入ることで曲調はラプソディーに似通うことになるが、2曲目以降はさまざまな変化を付けてANGRAの独自性を出している。「ブラック・ウィドウズ・ウェブ」はアーク・エネミーの女性ボーカルが参加する。「ザ・ボトム・オブ・マイ・ソウル」はギターがボーカルをとるが、ファビオ・リオーネに比べると劣る。「マジック・ミラー」から「オムニ-インフィニット・ナッシング」まではANGRA風のメロディアスな組曲。