AMORPHIS

アモーフィス、アモルフィスはフィンランド出身のヘビーメタルバンド。中心人物はギターのエサ・ホロパイネン。1995年の「テイルズ・フロム・ザ・サウザンド・レイクス」でゴシックに近いメロディック・デスメタルで注目されるようになった。96年の「エレジー」以降6人編成となり、デスメタルの要素を徐々に減らしながら、明るくならないメロディアスなヘビーメタル、ハードロックとして人気を得ている。「エクリプス」以降は安定したサウンドで人気を確立している。

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THE KARELIAN ISTHMUS

1993年。フィンランドのメロディック・デスメタルバンド。ボーカル兼ギター、キーボードを含む5人組。タイトルの「カレリアン・イスムス」とは「カレリア地峡」の意味。フィンランド出身の作曲家、シベリウスは「カレリア」組曲を作曲しているが、「カレリア」とはフィンランドとロシアの国境付近にある地方の名前。フィンランド人の祖先であるカレリア人が住んでいたとされる。ソ・フィン(ソ芬)戦争、第二次大戦によって現在はロシア領になっている。日本では60年代中期のエレキ・ブームで、スウェーデン出身のスプートニクスが「霧のカレリア」をヒットさせ、地名そのものは有名だ。カレリア地峡をアルバムタイトルにすることによって、音楽的にフィンランド人のルーツに近づくことを示唆している。デス・メタルにメロディアスなギターを取り入れ、さらに暗さを伴う哀感を漂わせたサウンド。日本では「テイルズ・フロム・ザ・サウザンド・レイクス」と同時発売。

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TALES FROM THE THOUSANDS LAKES

1995年。このアルバムの曲が日本で初めてラジオで紹介されたときのインパクトは大きかった。日本でのメロディック・デス・メタルファンの拡大は、カーカスよりもアモーフィスの方が貢献している。デスメタルからメロディック・デスメタルへ移る人よりも、メロディックなヘビーメタル、ハードロックから移ってくる人の方が多いからである。カーカスの場合、「ハートワーク」発表以前からバンドの知名度があったので、既にカーカスを知っている人にとって、「ハートワーク」の登場は「他ジャンルのバンドの新作が話題になっている」という程度の認識だった。アモーフィスの場合はほとんど知名度のない、いわば新人バンド扱いだったため、先入観を持たれずにこのアルバムが聞かれた。2人のボーカルがデス声と普通の声を対比させるように歌うのも、当時としては画期的試みで、ヘビーメタルファンには相当の思い入れを持って記憶されているアルバムとなった。このアルバムで日本デビュー。

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ELEGY

1996年。ボーカルが1人増え6人編成。デス声で歌う部分は少なくなり、普通の声で歌うところとツイン・ボーカルで歌うところが多くなった。いわゆるメロディック・デスメタルから抜け出して、一般のヘビーメタルとして高い品質を持ったアルバムになっている。普通のヘビーメタルバンドでもこのようなメロディーは出せないだろうというようなギターで、前作とともにメロディック・デス・メタルの金字塔である。

 
MY KANTELE

1997年。5曲入りシングル。2曲は新曲で2曲はカバー。「レヴィテイション」はホークウィンド、「アンド・アイ・ヒア・ユー・コール」はキングストン・ウォールのカバー。「カンテレ」とはフィンランドの民族楽器。

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TUONELA

1999年。「トゥオネラ」というタイトルは、フィンランドの作曲家シベリウスの「トゥオネラの白鳥」を思い出させる。前作で既にデスメタルから脱したサウンドをやっているので、デスメタルにしては、という前置きが必要なくなった。これをゴシック・ロックというならばそうなのかもしれないが、普通のヘビーメタルでも十分質が高い。サックスやフルートも入る。「ラスティ・ムーン」ではフルートが曲の中心を担う。

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AM UNIVERSUM

2001年。ベースが交代。ハードロック、またはロックサウンドとなり、このアルバムだけを聞くと、もともとヘビーメタル・バンドだったとは思われない。「ドリフティング・メモリーズ」のようなハードな曲もあり、オルガンを使う曲はハードになる。ここまでくると、「テイルズ・フロム・ザ・サウザンド・レイクス」で大きなインパクトを与えたことが逆に余計な先入観となって不幸だ。ヘビーメタルのバンドとして認知されていることも聞き手の拡大に障害となる。

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FAR FROM THE SUN

2003年。ジャケットに描かれているのは古代の北欧人が持つミョルニールと呼ばれるもので、「テイルズ・フロム・ザ・サウザンド・レイクス」のジャケットにも出てくる。古代北欧人のほとんどはミョルニールを首から提げているが、これは北欧神話の戦の神トールが持っている魔法のハンマーをかたどっており、これを身につけることで強大な力を持てたり厄難を逃れたりできるとされるようだ。いわば魔よけである。他のヨーロッパのバンドのジャケットにも頻繁に出てくる。サウンドは前作と変わらないが、ギターが前に出てきた。オープニング曲は民謡調のメロディーが印象的だ。

CHAPTERS

2003年。ベスト盤。

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ECLIPSE

2006年。ボーカルが交代。ギターとキーボードが対等にメロディーを担い、ゴシック・ロック風のサウンドになっている。オープニング曲のイントロは電子音風キーボードで、厚いギターとキーボードが曲を埋め尽くすような曲が続く。ボーカルはデス声と通常の声を使い分け、ヘビーメタルの範疇にとどまる。全曲が3分から5分で、長さを感じさせないことも作曲能力の高さを示している。このアルバムから作曲者がメンバーの個人表記となり、曲ごとに1人で作曲されているのが分かるようになった。ボーカルとドラム以外の4人が作曲に関わっている。作詞はメンバーではない外部の人間が行っている。

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SILENT WATERS

2007年。前作の路線で、ヘビーメタルの要素が多くなった。構成を凝りまくることなく適度に曲調の転換がある。ギターを持続音として曲のバックで埋めながら、減衰音のピアノを乗せることが多く、同様の手法をギター同士やキーボードとギターでも使う。ボーカルはデス声の頻度が増え、コーラスも多くなった。曲がやや長くなったが、それでも4分から5分に収まっている。フィンランドのバンドが、自らのルーツである叙事詩カレワラを題材とする心性は、アメリカのバンドがカントリーに興味を持ったり、イタリアやドイツのバンドがクラシック音楽を取り入れたりするのと同じ。作曲はギターとキーボードの3人。ボーナストラックの「サイ」はボーカルが作曲。

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SKYFORGER

2009年。前作に続き、サウンドも歌詞もフィンランドの叙事詩「カレワラ」のイメージを利用している。ボーカルは通常の声とデス声を使い、ギター2人、キーボード奏者、コーラスを揃えているので、バンドとしてはどんなサウンドでも対応できる条件が揃っている。中世から近代の画家が、ギリシャ神話や聖書の一節をテーマに借りて創作上の実験を重ねていたのと同様、アモルフィスもハードなロックを保持したまま、何かを試みていると思われる。

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THE BEGINNING OF TIMES

2011年。「カレワラ」から歌詞の内容を借用。近代ヨーロッパの画家が、あくまでも画法の追究のために絵の題材を手っ取り早く聖書や神話から借用するのと同様に、フィンランドのアーティストもよく「カレワラ」を引用する。ギターとキーボードが同時にメロディーを構成し、同じメロディーを両方が厚みを形成しながら盛り上げ、単一の楽器でメロディーを弾くときに起こるサウンドの剛柔の落差を作っている。ボーカルもデス声と通常の声でその落差を増幅する。スピードや演奏技術によらない陰影の付け方を提示している。

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CIRCLE

2013年。サウンドは前作の路線だが歌詞はカレワラではない。作詞はメンバーではないので、メンバーが創造性を働かせる部分は曲調やサウンドになっている。メロディーが民謡調になり、シン・リジーに似る部分もあるが、ヘビーメタルの重厚さを保っているので民謡メタルになることはない。サウンドの重厚さと半音階多用のメロディーのバランスがすばらしい。

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UNDER THE RED CLOUD

2015年。キーボードとギターが常に音を出していることが多く、それが密度の高い、厚いサウンドになっている。作曲はメンバー個人が独立して行っているため、アルバム全体を何らかの統一性でまとめているわけではないが、どの曲もメロディアスな部分が多い。ほとんどの曲にデス声のボーカルが入っているのでハードさは失われていない。「トゥリー・オブ・エイジズ」はエルヴェイティのホイッスル奏者が参加する民謡風の曲。作曲能力は高いが、ヘビーメタルやその周縁のロックに幾ばくかの変化をもたらしているわけではないというのが近年のありようだろう。

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QUEEN OF TIME

2018年。ベースが交代。合唱隊、オーケストラ、民族楽器奏者、女性ボーカルを迎え、前作以上に多様な音を集積している。合唱隊はイスラエルのアカペラグループ、オーケストラはオーファンド・ランド・オリエンタル・オーケストラ。ヨーロッパの合唱隊やオーケストラではなく、イスラエルのグループを使っているところに社会的なメッセージが込められている。オーケストラはギターやキーボードと同じようにメロディーを主導する楽器群となっている。曲やサウンドはかなりの質に到達しているが、歌詞はいまだ空想的で、ほとんどの聞き手に訴えかけるものがない。現代的な歌詞になれば、ヘビーメタルを超えた評価が得られるかもしれない。「ザ・ゴールデン・エルク」はオーケストラが中東風のメロディーになっている。「アモングスト・スターズ」は女性がボーカルをとる。

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HALO

2022年。コロナ禍で録音されたためメンバーが集まることができず、ゲスト参加は減った。それでも合唱団は「ノースワーズ」「ウォー」「ザ・ウルフ」に参加しており、「マイ・ネイム・イズ・ナイト」では女性ボーカルも参加する。民族楽器奏者がほぼいなくなった分、メンバーの楽器で演奏される部分が多くなり、結果的にギターが目立つ。どの曲もメロディーはなめらかに進んでいくが、以前からの問題として、通常の声のボーカルは音域がそれほど広くないため個々の曲の印象は全般に薄くなる。伝承を歌詞にしているのでそのイメージを保たなければならないことも、作曲する側には制約が大きい。それでも曲の構成や編曲、多様な音によって曲をうまく成り立たせている。日本盤は10曲収録のライブ盤が付いている。アモルフィスはライブ盤を出したことがないため、まとまった形でライブ盤が付くのは貴重だ。