1976年。AC/DCはギター2人の5人編成。オーストラリアのロックンロール・バンド。ギターはアンガス・ヤング、マルコム・ヤングの兄弟で、アンガス・ヤングがリード・ギターとなっている。ボーカルはボン・スコット。70年代後半に入ってデビューし、ハードロック時代のロックン・ロール・サウンドを提示して人気を得た。アメリカやイギリスのロックン・ロール・バンドが退廃的で近寄りがたい雰囲気を漂わせていたのに比べ、AC/DCは切れのいいギター、のりやすいリズムでロックン・ロールそのものの楽しさを伝えた。英米ではこのアルバムがデビュー盤。オーストラリアでは「ハイ・ヴォルテージ」がデビュー盤、「TNT」が2枚目のアルバムで、英米盤はこの2枚からの抜粋。「ロング・ウェイ・トゥ・ザ・トップ」「ジャック」「T.N.T.」収録。
1976年。邦題「悪事と地獄」。オープニング曲は単語の語頭をDに合わせた名曲、ライブでの観客との掛け合いを想定したかのようなサビメロディーだ。「俺らはロッカー」はハード。当時、アメリカでは発売されなかったが81年に発売。
1977年。邦題「ロック魂」。アルバムタイトル曲と「ホール・ロッタ・ロージー」のかっこよさはどの世代でも分かる有名曲。
1978年。ベースが交代。ボーカルのボン・スコットは1980年に亡くなるが、ボン・スコット在籍時のアルバムではやや地味なアルバムだ。ロックンロールでは地味であることが必ずしも否定的な意味にはならないが、スタジオ録音盤としては「地獄のハイウェイ」の前なのでやや影が薄くなっている。「リフ・ラフ」収録。
1978年。邦題「ギター殺人事件・AC/DC流血ライヴ」。ライブ盤。日本ではラジオでスタジオ録音の「ジャック」がかかることは少ないが、このライブ盤を聞けば重要な曲であることが分かる。ボン・スコットのボーカルはライブでもロックン・ロールの勢いや衝動性を発揮している。
1979年。邦題「地獄のハイウェイ」。アルバムタイトルのオープニング曲はフリーの「オール・ライト・ナウ」並みに耳に残りやすい。もともと覚えやすい曲が多いバンドだったが、ギターフレーズの単純さ、明快さとともに「地獄のハイウェイ」で頂点に達した。ローリング・ストーンズ、エアロスミス、グラムロックに代表される退廃性、ザ・フー、セックス・ピストルズ、ハードコアに代表される破滅型のロックンロールとは異なる新しいロックンロールを提示しているが、それは健全な若者像から大きく逸脱しないロックンロールと言える。従来のロックンロールを聞くことに躊躇する理由をAC/DCは大きく減らし、誰もが後ろめたさを感じずに聞けるハードなロックンロールとなったことで、ファンの数を大きく拡大した。ロバート・ジョン・マット・ランジがプロデューサーとなっている。
1980年。ボーカルのボン・スコットが死亡し、イギリスのロックンロールバンド、ジョーディーに在籍していたブライアン・ジョンソンが加入。前作に続き、アルバムタイトル曲が高い評価を受け、バンドの代表曲になった。その次の「狂った夜」もファンにはなじみが深い。ブライアン・ジョンソンはボン・スコットと同じく高い声で、粘度のあるパワフルな声だ。「地獄の鐘の音」収録。
1981年。邦題「悪魔の招待状」。オープニング曲は大砲の音が入った迫力のある曲。「フィンガー・オン・ユー」はこのころのAC/DCにしてはポップなギターメロディーだ。「地獄のハイウェイ」や「バック・イン・ブラック」でも取れなかった全米1位をこのアルバムで取っている。
1983年。邦題「征服者」。ヒットした前3作に比べればインパクトのある曲がなく、ジャケットも地味だ。ハードロックがアメリカで流行し始めたが、チャート成績はあまりふるわなかった。それでも全米15位。サウンドは従来通り。
1984年。オーストラリアでデビューしてから10年になるのを記念して、アメリカで未発表だった曲を5曲収録して発売したミニアルバム。ボーカルはボン・スコット。古風なブルース、ロックンロールをやっている。時代と場所は異なるが、60年代イギリスのヤードバーズや初期のビートルズもブルースやロックンロールに衝撃を受け、自分たちで演奏しながら個性を付けていった。AC/DCも同じ道を歩んだことが分かる。
1985年。ドラムが交代。サビがメンバーによるコーラスで歌われることが多い。曲がアップテンポで、ハードロック全盛の雰囲気を感じさせる。
1986年。アメリカの有名作家スティーヴン・キングが監督する映画のサウンドトラック。9曲のうち3曲が新曲で、このうち2曲はインスト曲。アルバムタイトル曲は後の「サンダーストラック」に出てくるギターフレーズが出てくる。「チェイス・ザ・エイス」はこのころよく出てきた速弾きギタリストのような演奏だ。
1988年。ブライアン・ジョンソンの声が濁ってきた。雰囲気もメロディーも健康的だ。「ニック・オブ・タイム」「トゥーズ・アップ」はメロディアス。
1990年。ハードロックがアメリカで流行し、ギターの切れ味を思わせるタイトルとジャケット、オープニング曲のポップさでヒットした。2曲目も勢いを持続させ、3曲目はメロディアスなロックとなっている。
ライブ盤。2枚組と1枚の2種類ある。2枚組は23曲収録されている。「レット・ゼア・ビー・ロック」はギターソロを含んで12分。2枚目はヒット曲が連続して並ぶ。ただ、曲ごとにフェードアウト、フェードインが繰り返され、ライブの熱気がややそがれてしまう。最後の「T.N.T.」は大砲の音が何度も響き渡る。
1995年。ドラムが交代し、デビュー時のメンバーが復帰した。全体的にミドルテンポで、前作の「サンダーストラック」のようなヒット性のある曲が少ない。ロックンロールなので、曲調が大きく変わることはないが、曲を聞いたときの高揚感はそれほど大きくならない。プロデューサーはリック・ルービン。
2000年。80年代のような勢いのあるロックンロールではないが、ミドルテンポでも覚えやすいメロディーを次々と繰り出してくる。爆発力よりも安定感が感じられる。「セイフ・イン・ニューヨーク・シティ」はアップテンポ。「ホールド・ミー・バック」「カム・アンド・ゲット・イット」「スティッフ・アッパー・リップ」は親しみやすい。
2009年。邦題「悪魔の氷」。ロックンロールの基本を忠実に守り、これまでとは違う何かを出したりしない。どの曲もサビは覚えやすい。「暴走/列車」はタイトルとサビの言葉を合わせた方がよかったか。各曲の邦題はギターウルフのメンバーがつけている。「地獄の回転花火」はアリス・クーパーの「俺の回転花火」になぞらえたと思われる。「金にはあきたぜ」は「バック・イン・ブラック」、「ロックで決めろ!!」は「地獄のハイウェイ」を思い出す。「イナズマの五月」はブルースの有名曲「ストーミー・マンデイ」とはあまり関係ないようだ。
2014年。ギターが決まったフレーズを繰り返し、ボーカルはそのメロディーと関係ないメロディーで歌う「バック・イン・ブラック」の手法をアルバムの最初と最後に置き、「ロック・ザ・ブルース・アウェイ」のようなポップな曲とレッド・ツェッペリンの「胸いっぱいの愛を」のような曲を挟む。ローリング・ストーンズ、キンクス、レッド・ツェッペリンが