TEENAGE FANCLUB

  • イギリスのオルタナティブ・ロック、フォークロックのバンド。
  • 初期はギター2人、ベース、ドラムの4人編成。
  • ギター中心のロックでデビューし、ポップなロックに移行した。
  • 「バンドワゴネスク」で知名度が上がった。代表作は「グランプリ」「ソングス・フロム・ノーザン・ブリテン」。

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A CATHOLIC EDUCATION

1990年。邦題「カソリック・エデュケーション」。演奏者として名前が5人ある。そのうち2人はドラムで、ドラムが2人同時に演奏されている曲は見受けられないので、事実上4人編成。ボーカル兼ギターとギターがほとんどを作曲し、「エヴリバディーズ・フール」だけが3人で作曲されている。アメリカの80年代末、90年代初頭のグランジ・ロック風。ギターの音色が粗く、厚い。ボーカルは付け足し程度だが、若干コーラスもある。オープニング曲は「ヘビー・メタル」というタイトルのインスト曲。7曲目にまた「ヘビー・メタルII」という曲が出てくる。7分以上ある似たようなインスト曲。このほかボーカル入りで「カソリック・エデュケーション」「カソリック・エデュケーション2」という組み合わせもある。「ドント・ニード・ア・ドラム」はドラムも入るスローテンポの曲。日本盤は1993年発売。

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BANDWAGONESQUE

1991年。ドラムが1人になり4人編成。ボーカルコーラスが多くなり、前作で1曲だけ作曲に参加していたベースが半分以上の曲で作曲にかかわり、メロディアスだ。コーラスも2声以上が多い。「ホワット・ユー・ドゥ・トゥ・ミー」はバッドフィンガーの「嵐の恋」を思わせる。インスト曲が2曲あり「サタン」は前作の路線、「イズ・ジス・ミュージック?」ははっきりしたメロディーのある曲。「メタル・ベイビー」はヘビーメタルに関する曲だが、肯定的ではない。このアルバムでサウンドが変わったと言えるが、前作からの連続性は失われていない。

 
WHAT YOU DO TO ME

1992年。シングルに未発表曲を4曲追加した企画盤。「ライク・ア・ヴァージン」はマドンナのカバー。

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THIRTEEN

1993年。ボーカルのメロディーがさらにはっきりし、コーラスも目立ってきた。バイオリン、フルート、オルガンなども使われる。オープニング曲のイントロはT.レックスの「電信サム」を意識したか。「120MIN」のイントロはちあきなおみの「喝采」に似ているが、偶然だろう。メンバー2人以上で共作している曲はなく、全曲が個人で作曲されている。今回はボーカル兼ギターが4曲、ギターが3曲、ベースが5曲、ドラムが1曲で、バランスが取れている。「ジーン・クラーク」はザ・バーズのボーカル、ジーン・クラークのことだと思われる。1991年に亡くなっているので、そのときに作曲されたと思われる。日本盤はボーナストラックが6曲あり、EP3曲ずつ2枚。「コーズ・オブ・フェーム」はアメリカの60年代プロテスト・フォークのフィル・オクス、「オールダー・ガイズ」はザ・バーズのグラム・パーソンズが結成したフライング・ブリトウ・ブラザーズのカバー。

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GRAND PRIX

1995年。ドラムが交代。ポップスとして完成の域に達し、バンドの売りもギターではなくメロディーになっている。「ティアーズ」はホーン・セクションを使用。「ディスコライト」は歌詞のコーラスではなく、スキャットのコーラスがつく。インスト曲はない。突出して長い曲もなく、全曲が4分台以下。「ニール・ユング」はニール・ヤングの綴りを変えたタイトルで、歌詞は特にニール・ヤングにかかわるところはない。「ハードコア/バラード」はハードな部分と静かな部分を一緒にしただけ。

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SONGS FROM NORTHERN BRITAIN

1997年。フォーク・ロックのころのザ・バーズに近くなった。アコースティック・ギターの使用が増えたので、フォーク・ロックのイメージがかなり大きい。「アイ・ドント・ウォント・コントロール・オブ・ユー」はイントロでマンドリンが使われ、最初から最後までコーラスで終わる。「プラネッツ」はストリングスとともに、本格的にキーボードも取り入れた。「テイク・ザ・ロング・ウェイ・ラウンド」もいい。「スピード・オブ・ライト」はアナログ・シンセサイザーがいい。

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HOWDY!

2000年。オープニング曲はソフト・ロックのアソシエーションを思わせるコーラス。ストリングスやキーボードの量も多くなり、「ストレイト&ナロウ」「カル・デ・サック」ほか、ほとんどの曲でキーボードがメロディーを主導する。さすがにこのサウンドをギターロックと呼ぶには無理がある。

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WORDS OF WISDOM AND HOPE/TEENAGE FANCLUB&JAD FAIR

2002年。邦題「英知と希望の詩」。シンガー・ソングライターのジャド・フェアーと共作。ティーンエイジ・ファンクラブが演奏し、ジャド・フェアーが歌う。

8
MAN-MADE

2005年。ドラムが交代。メンバー自身がプロデュースしており、「バンドワゴネスク」の雰囲気に戻った。ストリングスやキーボードはほとんどなく、ギターが演奏の中心になった。編曲もメンバーがやっているので凝ったコーラスも減り、ライブで可能な程度のコーラスしかついていない。曲の分かりやすさは「バンドワゴネスク」よりも優れている。プロデューサーはトータスのジョン・マッケンタイア。

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SHADOWS

2010年。キーボードが加入し5人編成。前作の路線。ストリングス、控えめなキーボードでギターサウンドを飾り、声を張り上げないボーカルとコーラスでなめらかなメロディーを歌う。意表をつくようなサウンドや突出した名曲はなかなか出てこない。しかし、曲全体が高品質だ。アメリカのフォークロックであっても十分通用する。「ダーク・クラウズ」はバイオリンとピアノが主導する。

10
HERE

2016年。曲のほとんどはギター、ベース、ドラムによる演奏で、キーボードが目立つ部分はあまりない。ストリングスはキーボードではなく弦楽器奏者がゲスト参加で演奏している。キーボード奏者はギターも弾けるので、ギターによる貢献が多いのかもしれない。オルタナティブ・ロックを通過したフォークロックという雰囲気で、ロックとしての表現の可能性を拡張しようという意気は薄い。「サーティーン」や「グランプリ」でアメリカの1970年前後のフォークロックに対する憧れを表明しているが、その中での聞きやすさや安心感を優先しているかのようだ。70年前後のフォークロック、ウェストコースト・サウンドは、その当時では新しいロックの形としてロックの幅を広げていからこそ存在意義があった。これを90年代以降、21世紀に入ってもサウンドの中核とするならば、何を存在意義とするのかが問われる。