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N.W.A

N.W.A. AND THE POSSE
1987年。邦題「N.W.A・アンド・ザ・パッシー~NWA軍団登場」。当初はNWAのアルバムとして発売されたが、現在はNWAを含む複数のアーティストの企画盤となっている。11曲のうちNWAは4曲を収録。残りの7曲のうち3曲はNWAのメンバーであるイージー・Eのソロ作。アルバム全体で貢献が大きいのはアイス・キューブ、ドクター・ドレー、イージー・Eだろう。アイス・キューブが6曲を作詞しており、NWAのイメージを形成した最重要メンバーと言える。パブリック・エナミーやラン・DMCのように、啓蒙的なメッセージがあったニューヨークのヒップホップに比べると、アイス・キューブの歌詞は最下層のアフリカ系アメリカ人を実体験的に描いている。ヒップホップ以前にもアフリカ系アメリカ人が作詞する曲は無数にあったが、音楽として流通するのは保守的白人男性によって選別されたものがほとんどだった。このアルバムが出てきた背景には、アフリカ系の低所得層だけで音楽を制作、流通させうるだけの、機材の普及があった。アフリカ系だけで音楽を制作できるようになったことで白人の意向を気にする必要はなくなり、結果として白人が知りたくない現実のアフリカ系アメリカ人の生活を知らしめることになっている。一方で多数のアフリカ系アメリカ人には、このような歌詞を書いてもいい、このような曲を作ってもいいと認識させることになり、ヒップホップの入り口と可能性を広げた。その意味では、ロックにおけるボブ・ディランやセックス・ピストルズと同種の意義がある。ドクター・ドレーはサウンド面での貢献があるが、ニューヨークのヒップホップの影響がまだ大きい。「ドリンク・イット・アップ」は「ツイスト・アンド・シャウト」の替え歌。「ア・ビッチ・イズ・ア・ビッチ」収録。日本盤は1992年発売。
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STRAIGHT OUTTA COMPTON
1988年。邦題「コンプトンの無法者たち」。最初の3曲がNWAのイメージをそれぞれ端的に表している。「ギャングスタ・ギャングスタ」はNWAのような新しいヒップホップに具体的名称を与えた。「ファック・ザ・ポリス」は論評に耐えうるメッセージを発したことでメディアが大きく取り上げる機会をつくり、このアルバム、あるいはNWAの知名度を上げた。92年当時の邦題では「・・・ザ・ポリス」となっている。最初の3曲とともに重要なのは「エクスプレス・ユアセルフ」と「サムシング・トゥ・ダンス・トゥ」だ。「エクスプレス・ユアセルフ」は自己検閲をする形で品のない言葉を除外し、アフリカ系以外にも訴えうる普遍的なメッセージをポップなR&B風の曲に乗せた。当時の邦題は「自己表現を忘れずに」であり、ラジオでもかかりやすかったとみられる。「サムシング・トゥ・ダンス・トゥ」も音楽に主張を求めない多くのアフリカ系アメリカ人や若年層白人、NWAの強い自己顕示に否定的なアフリカ系アメリカ人や白人に、広く支持を得られる曲だった。この2曲が心理的障壁を取り除くのに果たした役割は大きい。このアルバムは、攻撃的な最初の3曲と防御的な2曲が同時に収録されることで相乗効果的に支持を増幅したと言える。しかし、アルバムの社会的意義づけは後からなされたことであり、発売当時は挑発的で顕示的な雰囲気が支持を集めた。「ペアレンタル・ディスクレッション・イズ・アドヴァイズド」はベースやドラムが実際の楽器を演奏している。邦題は以前の「18歳以下はお断わり」の方がよかった。日本盤は1992年発売。
STRAIGHT OUTTA COMPTON
1988年。ボーナストラック5曲を収録した20周年企画盤。ボーナストラックの「ファック・ザ・ポリス」はボーン・サグスン・ハーモニー、「ギャングスタ・ギャングスタ」はスヌープ・ドッグがカバーしている。「コンプトンは最高」はドクター・ドレーとMCレンのライブ。2017年発売。
100 MILES AND RUNNIN'
1990年。EP盤。アイス・キューブが抜け4人編成。5曲収録。MCレンを中心に制作されている。「N.W.A・アンド・ザ・パッシー~NWA軍団登場」以来のサウンドを引き継ぐ。「ホンモノのニガー」は「主張あるニガー」にも収録されている。
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NIGGAZ4LIFE
1991年。邦題「主張あるニガー」。「抗議」「お酒にご用心」「裏切者へのメッセージ」「監禁」「コンプトン電話相談室」は1分以下から1分半の間奏曲。実質的に13曲の収録となっている。歌詞はMCレンとイージー・E、曲はドクター・ドレーが中心となって制作している。アイス・キューブがいなくなったことで、最下層にあるアフリカ系アメリカ人の認知、心理を率直に反映した歌詞になっている。このアルバムにある女性蔑視、肥大化した自意識、強い金銭志向は、NWAのメンバーの実体験に基づくとみられるが、その心理や行動は最下層のアフリカ系アメリカ人に限らない。先進国の下層男性は支配意識の維持のため常に女性蔑視であり、社会的威信の獲得に失敗しているがゆえに権威依存であり、無教養ゆえに抽象概念としての倫理よりも具体物としての金銭に固執する。しかし、そうした生き方や認知構造は、80年代までは支配層が選別して社会の表に出してこなかった。支配層に選別されてうち捨てられた「下層男性の欲望と現状」は、社会から消されることによって社会改革の議論も消されてきた。このアルバムに出てくるアフリカ系アメリカ人の姿は、既成の「ダンスと音楽に秀でたアフリカ系アメリカ人」像とは大きく異なる。支配層から忌避されたものが表に出てくれば、支配層の嫌悪感を招く。発売当時の日本盤の解説も嫌悪感をあらわにしている。しかし、NWAのメンバーがそうした生き方をせざるを得ないことはアルバムタイトル曲で歌われており、彼らの無軌道性をモラルの欠如や自己責任のように批判することは困難だ。モラルの欠如とはモラルを持っている者が持っていない者を批判する時に使う言葉であり、モラルを教えられる機会を持たなかった者はモラルを認識しないまま行動している。個人に対してモラルの欠如を批判するよりも社会に対して教育機会の欠如を批判するべきだろう。アルバム全体としては、政治性はなくとも社会性はあり、広い意味では政治性もある。最初のシングルとなった「いつだって臨戦体制」はミドルテンポでシンセサイザーを使う。ドクター・ドレーがNWA以降に多用するGファンクの典型であり、ギャングスタ・ラップの音楽的意匠を決定した曲として重要だ。このアルバムで日本デビュー。

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