NINE INCH NAILS

  • ボーカル兼キーボード兼プログラミングのトレント・レズナーを中心とするインダストリアル・ロックバンド。
  • 90年代にラウドロック、ヘビーロックの有力アーティストとしてヒット作を量産した。
  • 多用される電気的ノイズや不協和音、強いディストーションが、人間に対する科学技術の威圧を表現していると捉えられ、多くの支持を得た。
  • 代表作は「ザ・フラジャイル」「ザ・ダウンワード・スパイラル」「プリティ・ヘイト・マシーン」、EPの「ブロークン」。
  • 2000年代は90年代ほどの勢いはなくなっている。2009年に活動停止、2013年に活動再開を宣言した。

1
PRETTY HATE MACHINE

1989年。エレクトロニクス、シンセサイザーによるニューウェーブを通過したロック。技術の進歩が世界をよくするという考え方に疑念を抱かれるようになるのは、 一般には第2次大戦以降、戦後のポピュラー音楽では90年代以降だが、早い人は80年代から表現として取り入れてきた。ロックの世界ではナイン・インチ・ネイルズが先導的役割を果たしたと言える。エレクトロポップ、ニューウェーブがハードになったようなサウンドで、ロックとは言えるがヘビーメタルと言うには無理があるように感じられる。デビュー当時にもヘビーメタルだという認識はされなかったようだ。ギターもキーボードも聞けるが、多くの音が人工的な響きで、その上に明るくはないメロディーのボーカルが乗る。「ヘッド・ライク・ア・ホール」「シン」収録。全米75位、200万枚。

 
BROKEN

1992年。8曲入りEP。大きくロックに傾き、サウンドもヘビーメタル並みにギターがハードだ。ミニストリーよりも音に歪みやノイズを多くかけ、機械による無表情さ、人間味のなさを強くしている。「ウィッシュ」「ハピネス・イン・スレーヴァリー」はノイズ、不協和音、不快音とエレクトロニクスのサウンドを、うまく混ぜ合わせて攻撃性を維持している。この作品以降がいわゆるインダストリアル・メタル。「ウィッシュ」収録。「ウィッシュ」はグラミー賞受賞。全米7位。

 
FIXED

1993年。「ブロークン」のリミックス盤。1曲が長くなり、平均7分弱。6曲のうち前半の3曲は「ブロークン」収録曲と同タイトル。「ハピネス・イン・スレーヴァリー」「スロウ・ディス・アウェイ」はトレント・レズナーがリミックスに関わっている。

2
THE DOWNWARD SPIRAL

1994年。音響効果やノイズの量を増やし、ロックのハードさよりも陰鬱で殺伐とした雰囲気を重視したかのような作風。科学技術の進歩が必ずしも人間を幸福にしないということが、社会の相当程度の人の間で共通認識となったことを反映している。それをサウンドでうまく拾い上げた。電気的ノイズや不協和音を雑音ではなく音楽として取り込んだことの意味は大きい。ボーナストラックを含めて15曲あり、ボーナストラックは10曲目に入っている。全米2位、400万枚。「マーチ・オブ・ザ・ピッグス」は59位、「クローサー」は41位。

 
FURTHER DOWN THE SPIRAL

1995年。「ザ・ダウンワード・スパイラル」のリミックス盤。全米23位。

3
THE FRAGILE

1999年。「ザ・ダウンワード・スパイラル」よりもロックらしく、バンド・サウンドにも近い。2枚組で23曲あるが、1曲が平均4分半なので長い曲による疲労はない。「ザ・ダウンワード・スパイラル」で事前の注目度が大きくなっていたため、このアルバムもヒットしている。ハードな「スターファッカーズ、INC.」「ザ・デイ・ザ・ワールド・ウェント・アウェイ」がシングルになっている。全米1位、200万枚。

 
THE DAY THE WORLD WENT AWAY

1999年。シングル盤。全米17位。

 
THINGS FALLING APART

2000年。「ザ・フラジャイル」のリミックス盤。「スターファッカーズ、INC.」のリミックスが10曲中3曲ある。全米67位。

AND ALL THAT COULD HAVE BEEN

2002年。ライブ盤。

4
WITH TEETH

2005年。前作よりさらにロックらしくなり、ドラムは通常のロック・バンドのようにリズムをとる。フー・ファイターズのデイヴ・グロールが13曲のうち6曲をドラムで、1曲をパーカッションで参加している。途中でリズムを停止して唐突に電子音を入れたり、曲全体がテクノになったりするようなことはなく、ドラムのハードな演奏が残されたまま曲が進む。したがって、ロックとして聞きやすく、流行が終わったオルタナティブ・ロックとラウド・ロックをいまもやっているところに安心感がある。様々な音響効果をキーボードの一種として聞くことができるバンドサウンド。「ザ・ハンド・ザット・フィーズ」「オンリー」はダンスも可能なエレクトロ・ロック。

5
YEAR ZERO

2007年。邦題「イヤー・ゼロ~零原点…」。曲のタイトルも音の歪み方も不穏で、イントロの「ハイパーパワー!」と「キャピトルG」以外はプログラミングでリズムを作っている。不快音や不協和音を入れたり、ボーカルを聞き取りにくくしたり、摩擦音や破裂音を大量に使ったり、聞きにくさを意図的に増幅している。「ザ・ダウンワード・スパイラル」のハードな曲に近いサウンド。

6
GHOSTS I-IV

2008年。2枚組36曲で110分。全曲がインスト曲になっており、曲のタイトルは曲順に従って数字と「ゴースツI」から「ゴースツIV」を組み合わせた、一種の記号となっている。前作のような不協和音はあまり使わず、アンビエント音楽やシンセサイザー音楽のような聞きやすい響きが多い。ビートが効いた曲はエレクトロニクスによるプログラミングでビートを作る。トレント・レズナー、ナイン・インチ・ネイルズのアルバムの中では最も実験的と言える。明瞭なエレキギターはエイドリアン・ブリューであることが多い。日本盤はトレント・レズナーの作品解説のCDがつく。

7
THE SLIP

2008年。アルバムの前半と最後の曲をロックとし、後半の3曲を静かではあるが安寧ではない曲としている。「ゴースツ:I-IV」が特殊な内容なので、「イヤーゼロ~零原点…」の後継はこのアルバムと言える。「999,999」は「1,000,000」に続くイントロ。「1,000,000」はハードなロックンロール。「レッティング・ユー」はノイズが大きくかかったハードロック。「1,000,000」から6曲目の「ヘッド・ダウン」まではドラムが効いている。7曲目の「ライツ・イン・ザ・スカイ」はピアノの弾き語りでささやくように歌う。「コロナ・ラジエータ」はビートのないアンビエント、次の曲はビートのあるインスト曲。

8
HESITATION MARKS

2013年。確立しがたい自己を歌った曲が多い。これまでより聞きやすく、トレント・レズナーのボーカルメロディーを追いやすい。歪みを効かせたざらつきのある音よりも、シンセサイザーやエレクトロニクスの感触をそのまま使った音が多い。「エヴリシング」「イン・トゥー」はボーカルハーモニーがあり、ナイン・インチ・ネイルズの曲としては珍しい。

9
BAD WITCH

2018年。インダストリアルロックの雰囲気を復活させた。サウンドは前作と地続きではないが、歌詞は内省的という点で共通している。自己の内面にある神的な存在を、トレント・レズナーが「ゴッド」として交感している。「シット・ミラー」「プレイ・ザ・ゴッドダムド・パート」「ゴッド・ブレイク・ダウン・ザ・ドア」はサックスを使う。「ゴッド・ブレイク・ダウン・ザ・ドア」と「オーヴァー・アンド・アウト」はデヴィッド・ボウイを思わせる。6曲で30分。