MY BLOODY VALENTINE

マイ・ブラッディ・ヴァレンタインはギターを音階よりも音響に重点を置いて使うシューゲイザーの代表的なバンド。アイルランド出身。ボーカル兼ギターのケヴィン・シールズを中心とする。もう1人のボーカル兼ギターとベースは女性、ドラムは男性。「ラヴレス」でギターの扱い方に変革をもたらし、主にインディーでのロックバンドの方向に影響を与えた。長期の活動停止を経て2007年から活動を再開している。

THIS IS YOUR BLOODY VALENTINE

1985年。7曲入りミニアルバム。ボーカル、ギター、ドラム、キーボードの4人編成で、ベースはギターのケヴィン・シールズが演奏している。ボーカルはやや低い声だがよく歌い上げる。キーボードがサイケデリックロックの雰囲気を出すこともあり、「ザ・ラスト・サパー」はドアーズ、「タイガー・イン・マイ・タンク」はギターがアイアン・バタフライを思わせる。シューゲイザーの萌芽を感じさせる音はなく、デビュー盤としてのみ意味がある。

1
ISN'T ANYTHING

1988年。ケヴィン・シールズがボーカル兼ギターとなり、ギター兼ボーカル、ベースの女性が加入。サイケデリックの感覚をギターだけで表現しようとした痕跡があり、「キューピッド・カム」「セヴェラル・ガールズ・ギャロアー」などは「ラヴレス」につながるサウンドだ。「オール・アイ・ニード」「フィード・ミー・ウィズ・ユア・キス」はギターの奥でボーカルが歌われ、ボーカルは曲調を出すための雰囲気として機能している。

ECSTACY AND WINE

1989年。EPとミニアルバムを同時収録した編集盤。10曲のうち最初の3曲がEPの「ストロベリー・ワイン」収録曲、後半の7曲がミニアルバム「エクスタシー」収録曲。「ストロベリー・ワイン」は現在のメンバーになって最初の録音で、「エクスタシー」とともに1987年に発売されている。ギターはディストーションがかからないか、かかっても少なめで、音がこもらない80年代特有の音響だ。この編集盤の意義は現行メンバーでの最初の録音というところにあり、サウンドはあまり重要ではない。

GLIDER

1990年。EP盤。4曲収録。全曲が「EP's 1988-1991」に収録されている。「スーン」は「愛なき世界」収録曲とは異なるバージョン。「グライダー」は波打つギターが重なるインスト曲。「ドント・アスク・ホワイ」はケヴィン・シールズのボーカル曲。「オフ・ユア・フェイス」はボーカル、作曲ともビリンダ・ブッチャー。

TREMOLO

1991年。シングル盤。4曲収録。「スワロー」「ハニー・パワー」「ムーン・ソング」はアルバム未収録曲。「EP's 1988-1991」に全曲収録されている。

2
LOVELESS

1991年。邦題「愛なき世界」。従来のロックとは異なり、ギターの輪郭を大幅に曖昧にし、音階移動のポルタメントだけではなく機材による音の揺らぎを含んだ新しいサウンドを提示したとして名盤となっている。曲の良さも上がっている。ギターをメロディー楽器またはリズム楽器として使うよりも背景や雰囲気として使ったところが革新的で、これまでは煩雑な手間や未熟な機材、ロックバンドとしての人数の制限、人的または時間的コストによって省略されてきた部分であった。背景音は常に必要なわけではなく、なくても十分に質の高い音楽は存在するが、欲しいときに断念されることの多い要素だった。これをある程度可能にしたのがメロトロンに代わるシンセサイザーで、低価格化と高機能化によって80年代のニューウェーブ、ニューロマンティックス、アダルト・オリエンテッド・ロックで多用される。シューゲイザーのアーティストは80年代の音を聞いて育っており、背景に持続的な音があるのを当たり前として、これをギターで表現、あるいは代用したと解釈できる。ボーカルやキーボードではなく、ロックの代名詞的楽器であるギターによって明確に新しいサウンドを提示したことが高い評価につながっている。

EP's 1988-1991

2012年。1988年から1991年までのEP盤5枚と未発表曲等を集めた2枚組企画盤。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインがシューゲイザーのバンドとなったと解釈される「ユー・メイド・ミー・リアライズ」以降のEPを収録している。「ユー・メイド・ミー・リアライズ」は代表曲で、アルバム未収録だった曲。2枚目は「ラヴレス」に近い時期のEP盤などの曲なので、音に揺らぎがあったりやや実験的であったりする。

3
MBV

2013年。9曲のうち、最初の3曲はギターが中心の従来のサウンド、4曲目から6曲目はキーボードと女性ボーカルがメーンとなる曲、7曲目から9曲目はハードなロックに戻るが、8、9曲目はドラムがメーンとなっている。最初の3曲は安心感を与えるために、「ラヴレス」に近い曲を選んだとみられる。4曲目以降がケヴィン・シールズ、あるいはマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの音楽的関心を示しているならば、「ラヴレス」以降の20年ほどは分厚いギターや不安定な音響のギターにそれほど固執していないということだ。次作以降にサウンドを相当に変えてくる予告としてのアルバムか。