MADONNA

マドンナは80年代以降の女性ポップス歌手では世界のトップとなっているアメリカの歌手。1958年生まれ。マイケル・ジャクソンとともに、ポピュラー音楽と映像の一体化、不可分化を完成させた。音楽はポップスの最先端であるが、言動は一貫して社会性を持っている。代表作は「ライク・ア・ヴァージン」「トゥルー・ブルー」「ライク・ア・プレイヤー」「レイ・オブ・ライト」「コンフェッションズ・オン・ア・ダンスフロア」。代表曲は「マテリアル・ガール」「ライク・ア・ヴァージン」「ライク・ア・プレイヤー」「ヴォーグ」「ミュージック」「ハング・アップ」。

1
MADONNA

1982年。邦題「バーニング・アップ」。マドンナは80年代の女性歌手として世界で最も有名。デトロイト近郊で生まれ、ニューヨークで下積み。シンセサイザー、コンピューターを多用した現代的ダンス音楽、マドンナ自身の華美な見た目(マリリン・モンローを思わせる金髪)、MTV時代に適応したビデオでビジュアル時代のスター像を決定づけた。サウンドのほとんどがシンセサイザー、ドラム・マシーンで制作されている。ビートを強調したダンス音楽で、テンポも踊りやすいように心拍に近くなっている。バラードはなく、ダンス音楽なのでリズムの転換やテンポの緩急もほとんどない。ボーカルは若々しさがあり、力強い。「バーニング・アップ」で聞かれるエレキ・ギターはプロデューサーのレジー・ルーカス。全米8位、500万枚。

2
LIKE A VIRGIN

1984年。マドンナの代表作。アルバムタイトル曲はマドンナの代表曲。ギターやアコースティック・ドラムをほとんど使わないサウンドを継承している。プロデューサーはナイル・ロジャース。個別の人間の存在を匿名化する物質的な時代の象徴となった。社会文化の中でポピュラー音楽を語る研究者では、「マテリアル・ガール」がマドンナの代名詞だとする。「マテリアル・ガール」はボーカルとコーラスが両方メーン・メロディーと解釈できるようなサウンド。「愛は色あせて」は初の本格的バラード。全米1位、1000万枚。

3
TRUE BLUE

1986年。マドンナの影響力がポピュラー音楽の世界だけでなく、一般社会にも広がったため、オープニング曲の「パパ・ドント・プリーチ」が大きな議論を呼んだ。(10代と思われる)若い女性が父に妊娠を告白し、出産と結婚を懇願する内容で、一種の世代間闘争とも言える。若い世代の支持を得ると同時に、(保守的な)親世代からも「子どもの世代の代表的アイドル」と見なされるようになった。特に、若い女性に支持される女性になったことは大きい。「オープン・ユア・ハート」「ラ・イスラ・ボニータ」収録。全米1位、800万枚。

WHO'S THAT GIRL SOUNDTRACK

1987年。

 
YOU CAN DANCE

1988年。過去のアルバム収録曲や映画のサウンドトラックをダンス音楽向けにリミックスした企画盤。オープニング曲の「スポットライト」は新曲。収録されている7曲はいずれも6分を超える。

4
LIKE A PRAYER

1989年。ミュージシャンによる楽器演奏となり、ダンハーフ、ブルース・ガイチ、ポリーニョ・ダ・コスタ、TOTOのジェフ・ポーカロなどが参加している。オープニング曲の「「ラヴ・ソング」はプリンスとデュエット。「チェリッシュ」はTOTOのようなイントロから始まり、軽くモータウン風になっているが、バックのキーボードとコーラスで典型的モータウン・サウンドにならずにすんでいる。「ディア・ジェシー」はストリングスがメロディーを主導し、途中のメロディーがアバの「サンキュー・フォー・ザ・ミュージック」に近くなる。「スパニッシュ・アイズ」はタイトル通りスペイン風ギターやカスタネット、パーカッションが出てくる。全米1位、400万枚。

 
I'M BREATHLESS

1990年。映画「ディック・トレイシー」の挿入曲5曲と、それをイメージして作られた6曲を収録したアルバム。映画に使用されている曲は「スーナー・オア・レイター」「モア」「ホワット・キャン・ユー・ルーズ」「ナウ・アイム・フォロイング・ユー(パートI)」「ナウ・アイム・フォロイング・ユー(パート2)」。アルバム全体はこの5曲に合わせた30年代から50年代のポップスのサウンド。「スーナー・オア・レイター」はミドルテンポのジャズ・ボーカル曲。「ハンキー・パンキー」はビッグ・バンドのジャズ風。「アイム・ゴーイング・バナナス」はカリブ海風。「ナウ・アイム・フォロイング・ユー」はレコード再生を模し、同じ個所が何回も再生されてしまう現象を再現している。全米2位、200万枚。

VOGUE EP

1990年。 

THE IMMACULATE COLLECTION

1990年。邦題「ウルトラ・マドンナ・グレイテスト・ヒッツ」。ベスト盤。全米2位、1000万枚。

5
EROTICA

1992年。ベースとバスドラムの音が低くなり、輪郭も甘くなっている。ヒップホップのサウンドに近い。マドンナの歌い方もささやいたり語ったりするスタイルが多い。そうしたサウンドの曲は「エロティカ」「フィーバー」「ホエア・ライフ・ビギンズ」「ウェイティング」「シークレット・ガーデン」。「エロティカ」はクール&ザ・ギャングの「ジャングル・ブギー」を引用している。「フィーバー」はペギー・リー、もしくはマッコイズのカバー。「バイ・バイ・ベイビー」は終始ボーカルが奥に引っ込んでいる。「ディーパー・アンド・ディーパー」はダンス音楽路線で、これまでのイメージの路線。アコースティック・ギターとカスタネットはスペイン風サウンドとして使われる。「ディド・ユー・ドゥー・イット?」はメーン・ボーカルにマドンナが出てこず、2人の男声ボーカルがラップで歌う。全米2位、200万枚。

 
RAIN EP

1993年。10曲入りEP。「レイン」はアルバム・バージョンとバージョン違い2曲、「フィーバー」はバージョン違い4曲収録。「アップ・ダウン・スウィート」はアルバム未収録曲。12分を超えるハウス。

6
BEDTIME STORIES

1994年。前作に続きヒップホップの路線だが、前作よりは曲に起伏がある。また、参加アーティストに大物が揃い、その人らに救われている部分もある。「ビー・ユア・ラヴァー」はアイズレー・ブラザーズの「イッツ・ユア・シング」をサンプリング。「インサイド・オブ・ミー」はデビュー直後のアリーヤの「バック・アンド・フォース」をサンプリング。「ヒューマン・ネイチャー」はメイン・ソースの「ホワット・ユー・ニード」をサンプリング。「サンクチュアリ」はハービー・ハンコックの「ウォーターメロン・マン」をサンプリング。「ベッドタイム・ストーリー」はネリー・フーパーとビョークが共作している。この曲はヒップホップではなくエレクトロ音楽風。「テイク・ア・バウ」収録。日本盤と海外盤ではジャケットの天地が逆。全米2位、200万枚。

SOMETHING TO REMEMBER

1995年。邦題「ベスト・オブ・マドンナ~バラード・コレクション」。全米6位、300万枚。

MUSIC FROM THE MOTION PICTURE EVITA

1996年。邦題「エビータ・オリジナル・サウンドトラック」。

7
RAY OF LIGHT

1998年。エレクトロニクスを大きく取り入れたアンダーワールドのようなサウンド。メロディーはきちんと歌われるので、「エロティカ」のような気だるさや落ち着きはむしろ少ない。「レイ・オブ・ライト」や「ナッシング・リアリー・マターズ」などはバックの演奏がエレクトロポップでなければ80年代のメロディーと変わらない。「シャンティ/アッシュタンギ」は南アジア、東南アジアの民族音楽で使われる打楽器を模した音が使われる。90年代の代表作。全米2位、400万枚。

 
AMERICAN PIE

2000年。シングル盤。映画「2番目に幸せなこと」の挿入曲。ドン・マクリーンのカバー。バージョン違い2曲収録。

8
MUSIC

2000年。このアルバムは、実際に音を聴く以前のイメージ作りが重視されている。一つは「MUSIC」というタイトル、もう一つは西部開拓時代を思わせるようなファッションのジャケットだ。アルバムタイトルを表記したロゴも(白人にとって)懐古趣味だ。したがって、アルバムにはそのようなイメージを具体化した曲が入っているであろうと期待させる。実際にはオープニング曲から3曲目まではコンピューターを多用したダンス音楽で、4曲目にアコースティック・ギターで始まる「アイ・ディザーヴ・イット」が来る。ここで聞き手は一度安心する。このパターンを繰り返し、7曲目に「ドント・テル・ミー」、10曲目に「ゴーン」を置いている。実験性の高いダンス音楽で緊張感を高めた後、アコースティック・ギターのカントリー風サウンドで弛緩させ、最後にドン・マクリーンの「アメリカン・パイ」のカバーを置く。「アメリカン・パイ」のカバーは、他の70年代ヒット曲をカバーするのとは意味合いが異なる。この曲は60年代アメリカ(白人)社会の混迷化を、ポピュラー音楽、エンターテイメント業界の変化に重ね合わせて歌われる曲で、ベビーブーム世代のアメリカ人に過去の苦難と郷愁を同時に思い起こさせる。歌詞に出てくる「バイ・バイ・ミス・アメリカン・パイ」とはマリリン・モンローの死のことであり、マリリン・モンローとマドンナが頻繁に比較されることを意識していると思われる。20世紀の締めくくりのアルバムとして、これまでのアルバムで最もよく考えられた構成を持ったアルバム。全米1位、300万枚。

GHV2

2001年。ベスト盤。

DIE ANOTHER DAY

2002年。シングル盤。映画のサウンドトラック曲。タイトル曲のバージョン違いが5曲入っている。

9
AMERICAN LIFE

2003年。前作と同じ体裁。プロデューサーも同じで、サウンドも変わらない。アコースティック・ギターを使うのは「ラヴ・プロフュージョン」、「ナッシング・フェイルズ」「インターヴェンション」「エックス・スタティック・プロセス」。「ナッシング・フェイルズ」は突然ゴスペル・コーラスが出てくる。ジャケットは戦闘的だ。このアルバムに「アメリカン・ライフ」というタイトルがついていることも示唆に富む。米同時テロとイラク戦争開戦後に出たアルバムであることも重要だ。全米1位。

10
CONFESSIONS ON A DANCEFLOOR

2005年。発売前からシングル曲の「ハング・アップ」が話題となり、かつてのダンス音楽路線に戻った。「ハング・アップ」はアバの「ギミー・ギミー・ギミー」をサンプリングしており、多数の洋楽ファンにアピールした。12曲すべてがつながっており、サウンドが前向きだ。「アイザック」は中近東風サウンド。イントロにある詩は17世紀のイエメンの詩人ラビ・シャローム・シャバジがヘブライ語で書いた有名な詩。イスラエル人女性歌手オフラ・ハザが1988年にヒットさせた。ヒップホップ・ファンにはエリック・B&ラキムの「ペイド・イン・フル」のサンプリングで有名。マドンナがなぜラビ・シャローム・シャバジの詩を採り上げたかを推測すれば、マドンナが興味を持っているカバラ占星術の書物を出しているからだろう。ラビ・シャローム・シャバジはユダヤ人にもイスラム教徒にも尊敬されているので、マドンナがこの曲に政治的な意味を含ませているならば、当然停戦を望んでいることになる。2000年代の代表作。全米1位。

HUNG UP

2005年。シングル盤。

SORRY

2006年。シングル盤。

I'M GOING TO TELL YOU A SECRET

2006年。ライブ盤。「コンフェッションズ・オン・ア・ダンスフロア」が発売される前のライブ。「イマジン」はジョン・レノンのカバー。「アイ・ラヴ・ニューヨーク」はスタジオ・バージョンが「コンフェッションズ・オン・ア・ダンスフロア」に収録されている。デビュー24年で初のライブ盤。

 
THE CONFESSIONS TOUR

2007年。ライブ盤。「コンフェッションズ・オン・ア・ダンスフロア」発売後のライブ。DVDには21曲、CDには13曲入る。「アイム・ゴーイング・トゥ・テル・ユー・ア・シークレット」に収録されている曲との重複を避けたとみられる。最後の「ハング・アップ」はその前の曲の「ラッキー・スター」に含まれる「ハング・アップ」のサンプリングを含めると10分以上ある。「マテリアル・ガール」「パパ・ドント・プリーチ」はないが「ライク・ア・ヴァージン」が含まれており、「アイム・ゴーイング・トゥ・テル・ユー・ア・シークレット」よりも収録曲の魅力は高い。DVDには十字架を使う映像も含まれる。マドンナが宗教や宗教的なモラルも相対化しているところが映像で確認できる。

11
HARD CANDY

2008年。前作に続きダンス音楽の路線。編曲はヒップホップが多い。最初の4曲はダンスに関連した歌詞になっている。デビューから20年以上たって、ポピュラー音楽の最新のサウンドを用いながらダンス音楽をやっていること自体を賞賛すべきなのかもしれない。音で埋め尽くされたような派手なサウンドではないが、それぞれの曲がポップでメロディアスだ。「フォー・ミニッツ」はジャスティン・ティンバーレイクとティンバランドが参加。「ビート・ゴーズ・オン」はカニエ・ウェストが参加している。

 
STICKY&SWEET TOUR

2010年。CDとDVDの2枚組。CDは62分、DVDは155分収録。世界最高峰の女性アーティストなので、舞台設備のほとんどが世界最先端であり、現在のライブ音響、ライブ録音を最も進んだ形で確認できる。CDはDVDのダイジェスト版のような編集。映像がメーンとしての作品だ。

12
MDNA

2012年。エレクトロニクスを存分に使ったダンス音楽を中心に、「ターン・アップ・ザ・ラジオ」「スーパースター」のようなメロディアスな曲を挟む。「ギヴ・ミー・オール・ユア・ラヴィン」はアヴリル・ラヴィーンのようなチアリーディング曲で、ヒット性に富む。「ラヴ・スペント」は「ハング・アップ」もしくはアバの「ギミー・ギミー・ギミー」を思わせるフレーズを使い、ストリングス風の音を使う。この曲以降はストリングス系が多くなる。「バースデー・ソング」もいい曲だ。

13
REBEL HEART

2015年。エレクトロニクスを使った音楽であることは変わらないが、曲の多くはダンス音楽にはならず、通常のポップスとなっている。80年代から女性ポップスのトップにいることの孤独を歌う曲が複数あり、若手の女性歌手にはないすごみがある。デビュー以来、全体としてはダンス音楽を主体としながら、10年に1回くらいは「アメリカン・ライフ」のような社会的主張を込めたアルバムがあり、今回はそうしたアルバムと受け取れる。マドンナが「ポップの女王」と呼ばれて多数の支持者を獲得しながら、人文科学、社会科学系研究者にも教養層にも評価されるのは、社会性のある曲を自覚的に、定期的に発表するからだ。「ウォッシュ・オール・オーヴァー・ミー」「ウェーニー・ウィーディー・ウィーキー」「レベル・ハート」はメッセージ性が大きい。「デヴィル・プレイ」は「朝日のあたる家」を思わせる。

14
MADAME X

2019年。マドンナがポルトガルに住んでいるため、ポルトガル、ヨーロッパの音楽が含まれている。ポルトガル語で歌われる部分もある。「キラーズ・フー・アー・パーティーイング」はファド。アルバム全体としてはエレクトロ調のポップスだ。「ダーク・バレエ」は途中で曲調が大きく変わり、後半はチャイコフスキーの葦笛の踊りが使われる。「ゴッド・コントロール」はエレクトロポップにカンタータ風の合唱が付く。政治的と言えるのは、銃規制に関する「ゴッド・コントロール」「アイ・ライズ」、貧困に関する「フューチャー」、非抑圧者、少数者に関する「キラーズ・フー・アー・パーティーイング」。