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KENDRICK LAMAR

1
SECTION.80
2011年。現在はデジタル・ダウンロードで発売。「ハイパワー」収録。
2
GOOD KID,M.A.A.D CITY
2012年。綿密に練られたアルバムの構成、そこで展開される物語の内容、それを語るケンドリック・ラマーの自己客体化した視点、アルバムが訴える社会的歪み、等が一体となり、ヒップホップを超えてポピュラー音楽全体での傑作となっている。12曲のうち、11曲目までが実体験に基づく自伝的物語で、最後の曲が生まれ育ったアメリカ・カリフォルニア州のコンプトンをたたえる曲になっている。1曲目はケンドリック・ラマーの母親による留守番電話が使われており、これが自伝的物語の伏線の役割を果たす。曲が進むに従って、アフリカ系アメリカ人がその社会集団で生きていく中で、善良な人間であっても過酷な人生を強いられる実例が示される。それは端的に言えば、当事者がどう考えているかにかかわらずその社会集団のルールに従わざるを得ない、同調圧力によってその社会集団に巻き込まれざるを得ず、その結果、アフリカ系アメリカ人は社会の下位層として著しい不利益から逃れられないことだ。ケンドリック・ラマーは一連の曲を自分の視点を交えて書いているが、アルバムとして物語を構成するには第三者的視点を持たなければ作り得ない。第三者的視点は、白人の上位層であっても20代や30代で身に付けることができず、大多数は身に付けることがないまま一生を終える。アフリカ系アメリカ人のヒップホップアーティストが、若くして第三者的視点を持ち合わせ、自らが属する集団の問題を一つの作品として提示したことは驚異的だ。かつてデヴィッド・ボウイが自らの精神的負担を「ジギー・スターダスト」に昇華させたことよりも大きな説得力がある。アルバムにみられる母親と家族に対する敬意は、聞き手に希望を与える。母親は息子であるケンドリック・ラマーに善良な子どもでいるよう教育し、ケンドリック・ラマーもそのシーンを曲に含ませている。教育こそがアフリカ系アメリカ人の状況を好転させる最も効果的な手段だというメッセージを発している。最後の「コンプトン」でドクター・ドレーと共演し、地元を誇りとしていることも、好印象を与える。「スウィミング・プールス(ドランク)」「ポエティック・ジャスティス」収録。
3
TO PIMP A BUTTERFLY
2015年。ケンドリック・ラマー個人の経験に基づいた前作から、アフリカ系アメリカ人全体が抱える問題、抑圧されてきた歴史、アフリカ系アメリカ人の内部にも存在する問題等にテーマを広げている。ケンドリック・ラマーは全編を通じて若いアフリカ系アメリカ人に「自身と自尊心を持て」と訴える。1980年代後半から90年前後のブギ・ダウン・プロダクションズ、ランDMC、パブリック・エナミーが、当時の若いアフリカ系アメリカ人に対して教育的に啓蒙していたのと似ており、ちょうど1世代の時代が流れて再び同じ役割担うアーティストが出てきたと言える。ただし、言葉遣いは2パックの影響受けているので、ランDMC等よりも攻撃的で挑発的だ。オープニング曲の「ウェズリーズ・セオリー」、「コンプレクション(ア・ズールー・ラヴ)」は若者への呼び掛けの要素が大きい。「キング・クンタ」はアレックス・ヘイリーの「ルーツ」を題材にしており、教養層から評価を得そうだ。最後の「モータル・マン」はケンドリック・ラマーと2パックが疑似的に会話している。この会話自体も、曲全体も人種問題とアフリカ系アメリカ人の自己認識等を問うており、2パックの会話を再構成して新たな曲を作ったのは見事だ。「ハウ・マッチ・ア・ダラー・コスト」や「マンマ」「モータル・マン」のような曲が出てくると、次作以降どんな曲が出てくるのか、何を歌うのかを聞き手に大きく期待させる。前作が成功してゲスト参加者が豪華になり、スヌープ・ドッグ、ファレル・ウィリアムス、ジョージ・クリントン、サンダーキャット等が参加している。サウンドはバンドサウンドに近く、ヒップホップファンでなくても聞きやすい。「オールライト」収録。
4
UNTITLED UNMASTERED
2016年。「トゥ・ピンプ・ア・バタフライ」の未収録曲、未発表曲を、タイトルを付けずに8曲収録。ヒップホップ以外の音楽ファンにも未発表曲を聞きたいと思わせるアーティストは少ない。どの曲も「トゥ・ピンプ・ア・バタフライ」に入っていても違和感はない。「アンタイトルド03|05.28.2013」はもしもシリーズのような新しいアイデアで白人男性を批判している。日本盤は「トゥ・ピンプ・ア・バタフライ」と同じ訳者が曲を日本語訳しており、曲の趣旨を簡潔に説明しているのは親切だ。
5
DAMN.
2017年。内省的になり、宗教、特に聖書への言及が多くなった。また、ケンドリック・ラマーが他のアフリカ系アメリカ人に比べて恵まれていることについても、教養層特有の罪悪感を感じていることがうかがえる。恵まれているといっても大多数の下層白人男性に比べれば圧倒的に厳しい境遇であることに変わりはないが、それでも同世代のアフリカ系アメリカ人に比べれば、小さな差が所属集団の中で大きな違いとして認識される。ケンドリック・ラマーは、わずかに恵まれた環境で育ったことが結果的に現在の成功につながっており、他のアフリカ系アメリカ人に対する申し訳なさと、自らの社会的役割への認識と、無教養層向けメディアからの中傷を、「グッド・キッド、マッド・シティー」と同様、作品に昇華させている。無教養層向けメディアであるFOXニュースに対しては何度も批判している。「XXX」はU2と共演。「ハンブル」収録。

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