G.LOVE&SPECIAL SAUCE

  • ボーカル兼ギターのG・ラヴを中心とする3人組。アメリカ出身。
  • ヒップホップを通過したブルースバンドとしてデビューし、ジャック・ジョンソンらとの協演を経て、2010年代はブルースロックのバンドとして認知される。

1
G.LOVE AND SPECIAL SAUCE

1994年。ヒップホップを通過したロックアーティストによるブルースのバンド。「ブルース・ミュージック」「コールド・ビヴァレッジ」はヒップホップの歌い方に聞こえるが、もともとブルースにもトーキング・ブルースがあるので、ヒップホップをブルースと掛け合わせることに全く抵抗はなかっただろう。「コールド・ビヴァレッジ」「ファットマン」はヒップホップの影響が大きい。「サム・ピープルズ・ライク・ザット」「タウン・トゥ・タウン」はブルースそのもの。「シューティング・フープス」はビートルズの「カム・トゥゲザー」を思わせる。

2
COAST TO COAST MOTEL

1995年。前作からヒップホップ風の歌い方が減り、サウンドもアメリカ南部のイメージをより強く出している。「キッス・アンド・テル」はバッドフィンガーの「マジック・クリスチャンのテーマ」を思わせるポップなメロディー。

3
YEAR,IT'S THAT EASY

1997年。G・ラヴ&スペシャル・ソースとしてのほかに、オール・フェラズ・バンドとともに作曲、録音している曲もある。ドクター・ジョンがキーボードで参加しており、ハモンドオルガンとピアノを弾いている。アルバムタイトル曲と「トゥハンドレッド・イヤーズ」のような曲が1990年代の若手アーティストであることを認識させる。「アイ・セヴンティー・シックス」はコマンダー・コディ・アンド・ヒズ・ロスト・プラネット・エアメンの「ホット・ロッド・リンカーン」のような曲。

4
PHILADELPHONIC

1999年。バンドがプロデュースせず、専任者に任せた。これまでで最も整合感のあるサウンドで、「ナンバーズ」「ドゥ・イット・フォー・フリー」「キック・ドラム」などは念入りに作られた音になっている。「ドリーミン」ではスクラッチが使われる。「ロデオ・クラウンズ」ではジャック・ジョンソンが参加している。「アラウンド・ザ・ワールド(サンキュー)」はライブでのMCを集めて編集しており、日本語のMCも聞ける。「ロック・アンド・ロール(シャウツ・アウト・バック・トゥ・ザ・ラッパーズ)」は80年代から90年代半ばまでのヒップホップの有名アーティストを賞賛する曲。ラン・DMCやデ・ラ・ソウル、2パックのほかEPMDやア・トライブ・コールド・クエスト、エリック・B&ラキムまで出てくるがパブリック・エナミーやNASは出てこない。

5
ELECTRIC MILE

2001年。バンドがプロデュースする形に戻ったが、サウンドは前作と変わらず、音のバランスやタイミングが作り込まれている。オルガン奏者としてジョン・メデスキが参加しており、パーカッションやストリングスの使用も多い。デビュー当初のような3人での一発録音よりもスタジオでの編集の方が音楽的可能性を追求しやすいと感じたのだろう。一発録音特有の不協和音やアンバランスな緊張感は薄れるが、G・ラヴのよさは即興性よりも曲の構造部分にあると主張するようなアルバム。

6
THE HUSTLE

2004年。バンド名をGラヴに変更。前半は明るめの曲が多く、ロック、レゲエ、ヒップホップ調のボーカルは前半に多くなっている。後半はアコースティックギターを使う曲を並べる。全体的に前向きな曲が多い。「ギヴィットゥ・ユー」はジャック・ジョンソンが参加している。

7
LEMONADE

2006年。ジャック・ジョンソン、ベン・ハーパー、ドノヴァン・フランケンレイター、トリスタン・プリティマンらが参加。バンドのメンバーは曲によって参加するということになり、事実上G・ラヴ個人のソロアルバムのようになっている。「バンガー」「サンクス・アンド・プレイズ」はドラムがプログラミングで演奏される。ボーカルのメロディーに抑揚が少なく、メロディーによって高揚感を喚起するよりもミドルテンポのリズムや持続音の惰性で満足させる。

8
SUPERHERO BROTHER

2008年。ピアノやホーンセクションを使い、60年代のリズム&ブルースを意識したサウンドが多くなっている。アルバムの前半はこれまでになくポップで弾むような音が多い。耳に残りやすいフレーズが増えたと言ってもいいだろう。「クランブル」はジャック・ジョンソン、「ホワット・ウィー・ニード」はオアシスのような曲。

9
FIXIN' TO DIE

2011年。ベースが抜けバンドの体をなさなくなり、ソロ名義となっている。多くの曲にアヴェット・ブラザーズのメンバーが参加し、プロデュースもしている。アコースティックギターとアコースティック楽器の量が増え、ミドルテンポの曲にはブルースをより感じられるようになっている。ヒップホップの歌い方は出てこない。「ゲット・ゴーイン」はボブ・ディランを思わせる。アルバムタイトル曲はブッカ・ホワイト、「ユーヴ・ガットゥ・ダイ」はブラインド・ウィリー・マクテル、「ペイル・ブルー・アイズ」はルー・リード、「恋人と別れる50の方法」はポール・サイモンのカバー。日本盤とアメリカ盤は曲順が大幅に異なる。

10
SUGAR

2014年。スライドギター、オルガン、ホーンセクション、女性ボーカルを使い、リズム&ブルースとロックンロールが近かった時代のポピュラー音楽を再現している。「イレクトリック・マイル」のようなサウンド。ヒップホップやサーフミュージックのイメージはなく、イギリス人による60年代後半のソウルや70年代前半のローリング・ストーンズ、70年代半ばのサザン・ロックを2000年代の音質で聞いているようだ。60年代から多くのアーティストを通じてずっと続いているブルース調のロックンロールを、2000年代にG・ラヴが引き継いでいる。永続性のある音楽が次々と入れ替わるアーティストによって保存されていくのは、リチャード・ドーキンスの遺伝子と乗り物の関係を思わせる。