BEASTIE BOYS

  • ハードコアのバンドだった白人男性グループがヒップホップのグループとしてデビュー。アメリカ、ニューヨーク出身。
  • デビュー盤の「ライセンス・トゥ・イル」が大ヒット、90年代は低迷し、2004年に人気が復活。ヒップホップを白人に広く認知させた重要グループ。
  • 代表曲は「ファイト・フォー・ユア・ライト」「チ、チェック・イット・アウト」「ノー・スリープ・ティル・ブルックリン」。

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LICENSE TO ILL

1986年。4人編成。ヒップホップのグループとしてはDJ1人とボーカル3人の編成。ロック・バンドの編成としてはギター、ベース、ドラムの3人とDJの編成。サウンドはヒップホップであることが多いが、サンプリングに使われる曲にはハードロック、ヘビーメタルが多い。オープニング曲の「ライミン&スティーリン」はブラック・サバスの「スイート・リーフ」が全編に流れ、途中でクラッシュの「アイ・フォート・ザ・ロウ」を挟む。「シーズ・クラフティ」はレッド・ツェッペリンの「ジ・オーシャン」、「スロー・ライド」はウォーの「ロウ・ライダー」、「ホールド・イット・ナウ、ヒット・イット」はクール&ザ・ギャングの「ファンキー・スタッフ」とカーティス・ブロウの「クリスマス・ラッピン」、「タイム・トゥ・ゲット・イル」はスティービー・ワンンダーの「ブギー・オン・レゲエ・ウーマン」、スティーブ・ミラー・バンドの「テイク・ザ・マネー・アンド・ラン」、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバルの「ダウン・オンザ・コーナー」、レッド・ツェッペリンの「カスタード・パイ」などをサンプリング。「ポール・リヴィア」はポール・リヴィア&ザ・レイダースではなく、真夜中の騎行で有名なアメリカ独立期の英雄ポール・リヴィアのこと。「ファイト・フォー・ユア・ライト」と「ノー・スリープ・ティル・ブルックリン」は代表曲のひとつで、「ファイト・フォー・ユア・ライト」はバンド演奏になっている。スレイヤーのギター、ケリー・キングが参加しているが、プロデューサーのリック・ルービンがこのころランDMCやパブリック・エナミーのプロデュースをしながらスレイヤーのほとんどのアルバムも同時にプロデュースしていたため、その人脈で参加したと思われる。「ノー・スリープ・ティル・ブルックリン」はモーターヘッドの唯一の全英1位ヒット作「ノー・スリープ・ティル・ハマースミス」を踏まえたタイトル。ヘビーメタルとの関わりは他のヒップホップ・グループよりも圧倒的に深いが、同時にヘビーメタルのダサさ、格好悪さも広く認知させることになった。「ブラス・モンキー」収録。全米1位、900万枚。

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PAUL'S BOUTIQUE

1989年。ヒップホップに傾き、バンドサウンドは少なくなっている。ロック、ソウル、ファンク、ヒップホップを大量にサンプリングしており、中にはほとんど聞こえなかったり、1秒以下だったりする曲もある。イーグルスやエルヴィス・コステロ、マウンテンなども含まれる。ビートルズやレッド・ツェッペリンが複数使われていることに驚きはないが、ピンク・フロイド、スウィートも複数回出てくるのは音楽的素養の広さをうかがわせる。映画のサウンドトラックもあり、「ジョーズ」「エイリアン」「サイコ」「ウッドストック」を使用。DJのスクラッチも多い。「ヘイ・レイディース」収録。プロデューサーのダスト・ブラザーズは後のケミカル・ブラザーズではない別のグループ。全米14位、200万枚。

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CHECK YOUR HEAD

1992年。バンドサウンドがかなり復活した。サンプリングも少なくなり、1曲丸ごと作曲されている曲が半分くらいある。マーク・ニシタがかかわっている曲はオルガンとパーカションが多用され、歌詞もほとんどない曲が多い。「フィンガー・リッキン・グッド」はフィフス・ディメンションの「輝く星座」とボブ・ディランの「親指トムのブルースのように」を分かりやすくサンプリングしているが、この曲がオーソドックスなヒップホップとして意外に聞こえるほどだ。オープニング曲のイントロで出てくるライブ音源はチープ・トリックの「at武道館」の「サレンダー」。「パス・ザ・マイク」「ソー・ワァッチャ・ウォント」収録。全米10位、200万枚。

 
SOME OLD BULLSHIT

1994年。アルバムデビュー前のシングル盤にデモ・バージョンを加えた企画盤。4人編成のバンドで、10曲目までは30秒から2分までのハードコア、あとの4曲は2分から5分で、サンプリング機能付きリズムマシーンで遊んだような曲。全米46位。

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ILL COMMUNICATION

1994年。前作に続きバンドサウンドが多い。曲によってはヒップホップやロックではなくハードコアだ。ヒップホップの雰囲気を残している曲は、演奏がジャズ・ヒップホップになる曲があり、「ゲット・イット・トゥギャザー」はア・トライブ・コールド・クエストのQティップが参加している。「サボタージュ」はヒップホップとハードコアを融合した曲として重要とされているようだ。「シャンバラ」「ボウディサトゥヴァ・ヴォウ」は東洋風のサウンド。「ルート・ダウン」「シュア・ショット」収録。全米1位、300万枚。

AGLIO E OLIO

1995年。EP盤。日本盤ボーナストラックの「蕎麦バイオレンス」を含め9曲全てがハードコア。9曲で12分。

 
THE IN SOUND FROM WAY OUT!

1996年。ギター、ベース、ドラムの3人とキーボード奏者、パーカッション奏者が全曲をインストで収録した企画盤。キーボードはオルガン中心。曲は「チェック・ユア・ヘッド」と「イル・コミュニケーション」収録曲が計11曲、2曲はシングル盤のB面の曲。バンド演奏なのでDJによるスクラッチやサンプリングは一切ない。そもそもDJは参加していない。「イル・コミュニケーション」のように音を歪ませることもしていないので比較的聞きやすい。ラップのないジャズ・ヒップホップとも言える。日本盤は1997年発売。ボーナストラックにはボーカルが入っている。全米45位。

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HELLO NASTY

1998年。バンドサウンドとヒップホップ・サウンドがちょうどよく入っており、どっちに片寄っているという作風ではない。ディストーションやエフェクトがかかっていない音が多く、聞きやすい。いわゆるギャングスタ・ラップ全盛の時期に録音されているので、勢いのあるラップが多い。サンプリングはさらに多彩になり、ラフマニノフの前奏曲嬰ハ短調やストラビンスキーの「火の鳥」も含まれている。従来通り、ほとんど分からないサンプリング多数。「スリー・MC&ワン・DJ」はビースティー・ボーイズ自身のこと。「インターギャラクティック」「ボディ・ムーヴィン」収録。全米1位、300万枚。

BODY MOVIN'

1998年。シングル盤。タイトル曲のファットボーイ・スリム・リミックス収録。

THE SOUND OF SCIENCE

1999年。ベスト盤。2枚組。新曲3曲、未発表曲2曲収録。全曲にメンバーのコメントが付いている。「ボディ・ムーヴィン」はファット・ボーイ・スリムがリミックス。「カントリー・マイクのテーマ」は35秒のカントリー。「ベニー・アンド・ザ・ジェッツ」はエルトン・ジョンのカバー。

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TO THE 5 BOROUGHS

2004年。6年ぶりのアルバムで、ヒップホップ発祥の地であるニューヨークを前面に出したため大ヒット。サウンドも「ライセンス・トゥ・イル」のヒップホップに近くなった。15曲で45分以下というのもレコードを意識した収録時間だ。バンドサウンドはないので「ファイト・フォー・ユア・ライト」のような曲はない。勢いのあるアップテンポの曲が多く、ヒップホップ・グループの重要グループがヒップホップのかっこよさを分かりやすく提示した。オープニング曲の「チ、チェック・イット・アウト」はすばらしい。

 
SOLID GOLD HITS

2005年。邦題「シングルズ・コレクション」。ベスト盤。「ボディ・ムーヴィン」はファットボーイ・スリムがリミックス。DVD付きで、「ブラス・モンキー」以外の全曲のビデオが収録されている。「ブラス・モンキー」はライブ映像。

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THE MIX-UP

2007年。全曲がインストになっているアルバム。「ジ・イン・サウンド・フロム・ウェイ・アウト」と同様、キーボードとパーカッションを入れ、5人編成で録音している。ボーカルやラップが入ってくることを想定したり、もともとボーカルがあった曲からボーカルを抜いたりしているわけではなく、最初からキーボードとギターがボーカルに代わる役割を果たしている。インストのサウンドとして目新しい要素はない。キーボードはほとんどがオルガン。ヒップホップではないので、ビースティ・ボーイズの名前で出す必要はなかったかもしれないが、ビースティ・ボーイズ名義で出すことによってこのアルバムの価値が立ち現れてくる。

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HOT SAUCE COMMITTEE PART TWO

2011年。80年代のサウンドの作り方を意識している。いわゆるオールドスクール・ヒップホップ。ラン・DMCや80年代のパブリック・エナミーを、現代の録音技術で聞いているようだ。「メイク・サム・ノイズ」「ノンストップ・ディスコ・パワーパック」「セイ・イット」はタイトルも曲もいい。「リー・メジャーズ・カム・アゲイン」はハードコア風。