ANDRE MATOS

アンドレ・マトスはブラジルのヘビーメタルバンド、アングラのボーカル。南米のヘビーメタルを世界から注目させることに成功した立役者の一人。アングラを脱退後にVIRGO、シャーマンを結成している。2007年からソロ名義でアルバムを出している。2019年死去。

 
VIRGO/VIRGO

2001年。アングラを脱退したアンドレ・マトスがヘブンズ・ゲイトのサシャ・ピートと組んだグループ。ヘビーメタルでもハードロックでもない。黒人コーラスも導入して自由に曲を作ってみたというようなアルバム。クラシック色もほとんどない。しかし、アメリカではプロモーション次第でヒットする可能性を十分に秘めている。

 
RITUAL/SHAMAN

2002年。アンドレ・マトスの新バンド。バンド名やアルバム・タイトル、曲調、諸々に土着的な事物へのまなざしが見える。こうした方向は北ヨーロッパのバンドに多く見られるが、雄壮な雰囲気にならないところにブラジル人の個性が出ている。サウンド自体はオーソドックスなヘビーメタルで、クラシック風という形容はアンドレ・マトスの個性から消えようとしている。

RITUALIVE/SHAMAN

2004年。ライブ盤。

 
REASON/SHAMAN

2005年。このアルバムはアンドレ・マトスが関わったアルバムの中では最高レベルに位置する傑作だ。サウンドと歌詞がうまく一致し、やや精神的なメッセージをありふれたヘビーメタルで演奏している。ありふれたヘビーメタルとは、90年代に大量に登場した、構成に凝ったヘビーメタルではないということである。プログレッシブ・ヘビーメタル、あるいは一部のヨーロッパ型ヘビーメタルの多くが、曲の途中にテンポの転換、メロディーの強引な接続を挿入し、「構成力」をアピールしたが成功したと言えるバンドは少なかった。演奏する側にとっては作曲能力と知性を示し、他のバンドとの違いを見せる手段であったが、たくさんのバンドがやると逆に埋没し、分かりにくさだけが残った。オーソドックスであるということは、聞きどころが曲の構成力ではなく、他の部分にあることを示している。アンドレ・マトスのボーカルは声域に無理がなく、メロディーの急上昇、急降下が少ない。ストリングスはキーボードではなく実物を使っている。スピーディーな曲がないこと、クラシック曲を引用したと思わせるメロディーが出てこないことがポイントで、これまでとは異なる評価基準を要求する作風だ。このアルバムの全体的なメッセージは「幸運とは生きていることそれ自体である」ということで、アルバムタイトル曲の最後に出てくる。「モア」は80年代のゴシック・ロック・バンド、シスターズ・オブ・マーシーのカバー。ミートローフの「地獄のロック・ライダー」で有名なジム・スタインマンが作曲に関わっている。ジャケットのデザインは「トレイル・オブ・ティアーズ」と関係があるのかどうか分からないが、一般に「トレイル・オブ・ティアーズ」とは1800年代のアメリカ政府による先住民強制移住(「涙の旅路」)を指す。比較的有名な歴史的事件で、アメリカ政府、およびアメリカ史の汚点のひとつ。

 
TIME TO BE FREE/ANDRE MATOS

2007年。アーティスト名としてアンドレ・マトスが使われているが、曲は固定されたメンバーで録音されている。ギター2人、キーボードを含む6人編成で、アンドレ・マトスはボーカル専任。ANGRA時代に近いサウンドで、1曲目はイントロ、2曲目が事実上のオープニング曲となっている。ドラム以外の5人が作曲し、特にギターは多くの曲にかかわっているので、サウンド上もギターの比重が大きい。「ハウ・ロング(アンリーシュド・アウェイ)」は80年代型速弾きヘビーメタル。「ア・ニュー・ムーンライト」はベートーベンのピアノ・ソナタ第14番「月光」を使っている。ヴァイパーの「ムーンライト」以来2回目で、メロディーも「ムーンライト」と同じ。「エンデヴァー」はシャーマンの「リーズン」に収録されていても違和感がないようなすばらしい編曲。「セパレート・ウェイズ」はジャーニーのカバー。アンドレ・マトスがこのバンドとシャーマンを掛け持ちしながら両方続けていくならば、現段階でのサウンドの違いが明確になっており、異なる名義にしたことは成功している。

 
MENTALIZE/ANDRE MATOS

2009年。ドラムが交代。クラシック風のサウンドを抑え、ヘビーメタルとして質の高い曲を揃えた。聞き手に高揚感を押しつけるようなオーケストラ風の音が少なく、比較されるであろうANGRAとの違いが明確だ。前作はアンドレ・マトスの音楽活動を集大成したような内容だったが、このアルバムでは比較的自由に作曲しているようだ。メロディアスでスピーディーなヘビーメタルであることは変わらないが、1曲目が序曲なしに始まるなどの変化がある。「アイ・ウィル・リターン」はコーラスが厚く、覚えやすい。これを2曲目に置いている構成は、かつてのヘアメタル、MTVロックと同じだ。ボーナストラックではクイーンの「手をとりあって」をカバーしている。

IN PARADISUM/SYMFONIA

2011年。アンドレ・マトスがストラトヴァリウスのティモ・トルキ、ハロウィンのウリ・カッシュらと結成したバンド。キーボードを含む5人編成。ギターが中心の大陸ヨーロッパ型ヘビーメタルで、キーボードはクラシック調。全曲をティモ・トルキが作曲している。アンドレ・マトスがボーカルだったころのANGRAに近いので、疑似ANGRAとして聞ける。しかし、ヘビーメタルの狭い世界ですら大陸ヨーロッパ型ヘビーメタルは退潮であり、広い支持と発展が見込めない中でどう継続していくかが課題だろう。

THE TURN OF THE LIGHTS/ANDRE MATOS

2012年。