ACCEPT

アクセプトはドイツのヘビーメタルバンド。ヨーロッパの伝統的な要素が入ったヘビーメタルではなく、80年代の英米ヘビーメタルを追従したヘビーメタル。大陸ヨーロッパ型ヘビーメタルとしてのジャーマンメタルではない。80年代中期の全盛期はウド・ダークシュナイダー(ボーカル)、ウルフ・ホフマン(ギター)、ヨルグ・フィッシャー(ギター)、ピーター・バルテス(ベース)、ステファン・カウフマン(ドラム)。「ボールズ・トゥ・ザ・ウォール」「メタル・ハート」「ロシアン・ルーレット」は高く評価されている。1989年のボーカル交代後から90年代は低迷期となっている。2010年に再結成している。

1
ACCEPT

1979年。邦題「殺戮のチェーンソー」。このころのドイツのハードロック界はスコーピオンズが「ラヴドライヴ」を出したころだ。つまりウルリッヒ・ロートが脱退してマティアス・ヤプスが加入したが、アルバムではマイケル・シェンカーが3曲でギターをプレイしているという状況だ。このアルバムはデビュー前年の78年にレコーディングされており、ジューダス・プリーストの「ステンド・クラス」や「殺人機械」を聞いてから作曲、レコーディングされたとは考えにくい。シン・リジーの影響が強いと思われる。ツイン・リードを生かした曲もあれば速いリフ回しのロックンロールもある。コーラスは普通。

2
I'M A REBEL

1980年。キレのあるリフやヒステリックなボーカルはあまりないが、ないわけではない。「チャイナ・レディー」は純然たるヘビーメタルだが、アルバム・タイトル曲や「アイ・ウォナ・ビー・ア・ヒーロー」あたりの曲がポップ化したという印象を与えている。ハードロック、ヘビーメタルでは十分水準に達したアルバムと言える。

3
BREAKER

1981年。邦題「戦慄の掟」。プロダクションも含めて余分な装飾を一切省いた純粋なヘビーメタル。全盛期のジューダス・プリーストにもひけをとらない。B面は80年代的なポップさもある。ウド・ダークシュナイダーのボーカルが炸裂。

4
RESTLESS AND WILD

1982年。ウド・ダークシュナイダーの金切り声のバックで聞こえる低音コーラスはこのアルバムから始まる。前作のようななじみやすいメロディーの曲がないのは、硬派なヘビーメタル路線で進むことの宣言か。「ファスト・アズ・ア・シャーク」収録。全英98位。

5
BALLS TO THE WALL

1984年。邦題「闇の反逆軍団」。アルバム・タイトル曲は前作の「ファスト・アズ・ア・シャーク」と比べれば圧倒的にかっこいい。「ロンドン・レザーボーイズ」は、アクセプトがイギリスのヘビーメタルを範とし、追随していることを示す端的な例。低音コーラスは声の太さに拍車がかかる。個性を確立した。全米74位。アメリカではこのアルバムが代表作で、唯一50万枚を超えている。

6
METAL HEART

1985年。アルバムの最初と最後にいい曲を置いて完成度を高めている。前作を踏襲。最高傑作とされる。全米94位、全英50位。

KAIZOKU-BAN(LIVE IN JAPAN)

1986年。ライブ盤。1985年、名古屋公演を収録。6曲で30分弱。全盛期なので演奏も安定している。ドラムはエレキ・ドラムのようなサウンドが交じる。「スクリーミング・フォー・ア・ラヴバイト」「ラヴ・チャイルド」「リヴィング・フォー・トゥナイト」な英米のハードロック、ヘビーメタルを全英91位。

7
RUSSIAN ROULETTE

1986年。ヘビーメタルの音も低音コーラスもそのまま。曲の印象は薄くなった。単調な感じは否めない。全盛期はここまで。全米114位、全英80位。

8
EAT THE HEAT

1989年。ボーカルのウド・ダークシュナイダーとギターのヨルグ・フィッシャーが脱退、後任2人を迎えて制作。新ボーカルは金切り声タイプではないので曲の印象がハードロック寄りに聞こえる。「ヘルハマー」「アイ・キャント・ビリーヴ・イン・ユー」ではオーソドックスなコーラスの使い方で、低音ではない。「STAND 4 WHAT U R」はいい曲。アクセプトがやる必然性がある音かどうかと言えば、ない。作品そのものは過去のイメージにとらわれた聞き方をされたため高い評価を得られなかった。全米139位。

STAYING A LIFE

1990年。世界レベルで初のライブ盤。1985年、大阪公演を収録。2枚組で99分。1枚目の最後の「バーニング」と2枚目の最初の「ヘッド・オーヴァー・ヒールズ」は歓声がつながる。ウド・ダークシュナイダーのMCのほか、アンコールを求める手拍子も入る。

9
OBJECTION OVERRULED

1993年。全盛期のメンバーのうちヨルグ・フィッシャーを除く4人で再結成。ハードな音に戻ったが、ミドル・テンポでの重量感は「メタル・ハート」や「ボールズ・トゥ・ザ・ウォール」には及ばない。ボーナス・トラックは本編に入れてもよかった。毛色は違うが曲はいい。

10
DEATH ROW

1994年。同時代的な音になっている。ドラムはステファン・シュバルツマン。「ソドム&ゴモラ」はハチャトゥリアンの「剣の舞」を、「ポンプ・アンド・サーカムスタンス」はエルガーの「威風堂々」を使用。「ジェネレーション・クラッシュII」は「イート・ザ・ヒート」収録曲の続編。ギターがウルフ・ホフマン1人になってバリエーションが貧弱になったのと、曲調が平坦になったのとで精彩を欠いている。

11
PREDATOR

1996年。ドラムはダム・ヤンキースのマイケル・カーテローン。ピーター・バルテスが4曲もボーカルをとっている。アクセプトでなければならない音ではない。

ALL AREAS-WORLDWIDE

1997年。再結成後のライブ。

12
BLOOD OF THE NATIONS

2010年。ボーカルがT.T.QUICKのマーク・トーニロに交代。ドラムはステファン・シュワルツマン。マーク・トーニロはウド・ダークシュナイダー、グレイヴ・ディガーのクリス・ボルテンダールに似た歌い方で、オーソドックスなヘビーメタルには適した力強い声だ。1980年代後半のサウンドで、低音のコーラスやギターソロを復活させている。メロディアスというよりはヘビーメタルの力強さが勝る。2000年代らしさがほとんどないところをどう捉えるかが評価の分かれ目だろう。

13
STALINGRAD

2012年。ボーカルのマーク・トーニロの声が、ウド・ダークシュナイダーが戻ったかのような似た声になった。オープニング曲の「ハング・ドロウン・アンド・クォータード」とその次のアルバムタイトル曲がよくできており、この2曲がアルバムの印象を決定している。「フラッシュ・トゥ・バング・タイム」はジューダス・プリーストのような曲。ミドルテンポの曲は「シャドウ・ソルジャーズ」「ツイスト・オブ・フェイト」くらいで、それ以外の曲は1980年代のヘビーメタルに望まれていたサウンドを継承している。ボーカルがマーク・トーニロになってからの最高作。

14
BLIND RAGE

2014年。ミドルテンポの曲が増えたためにハーマン・フランクがリズムギターが減り、相対的にウルフ・ホフマンのリードギターが目立つようになった。オープニング曲のイントロはキーボードを使う。「フォール・オブ・ジ・エンパイア」「ザ・カース」などのミドルテンポの曲はそれほど印象には残らない。「ファイナル・ジャーニー」はウルフ・ホフマンが自分の趣味を出し、グリーグの「ペール・ギュント」を使用している。20代、30代ならまだしも、50代で通俗化したクラシックの曲を取り上げるのは恥ずかしい。「ダイイング・ブリード」「ワナ・ビー・フリー」はアクセプトが今も今後も英米志向のヘビーメタルバンドであることを示す。

15
THE RISE OF CHAOS

2017年。ギター、ドラムが交代。ジャケットのイメージが変わり、一般的なヨーロッパのヘビーメタルバンドと変わらなくなっている。狭いヘビーメタルの世界で、他のバンドと同じであるという安心感を与える。

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TOO MEAN TO DIE

2021年。ベースが交代し、ギターが1人増え6人編成。アルバムタイトル曲はヘビーメタルを賞賛する曲で、80年代から続くジューダス・プリースト、アイアン・メイデン追随の曲。「オーヴァーナイト・センセーション」「ノー・ワンズ・マスター」「サック・トゥ・ビー・ウィズ・ユー」は、ネットの世界でよく見られる過大な自己評価や妄想、反知性主義を何の批判もなく歌っており、精神的未熟さは小中学生並みだ。「ジ・アンダーテイカー」のイントロはUFOの「ドクター・ドクター」を思わせる。「シンフォニー・オブ・ペイン」はベートーベンの交響曲第9番と第5番を使用。「サムソン・アンド・デライラ」はサン・サーンス、ドボルザークを使用。クラシックを多用することも、未熟さの裏返しとしての権威主義だ。